【第1部】ANA XのDX戦略~デジタルタッチポイントとしてのWebサイト~
スピーカー:ANA X株式会社 新谷 謙太氏
当日のアーカイブ動画は、
こちらよりお申込みいただけます。※講演資料も一緒にご案内します。
【第2部】ビジネス転換を促進するDX活用の考え方とその実践
第2部は、パネルディスカッション形式で、お客さま、インテグレーション支援パートナー、ツール提供パートナーの3視点から今回のプロジェクトを振り返りました。
パネラー:
ANA X株式会社 新谷 謙太氏
アドビ株式会社 安西 敬介氏
株式会社メンバーズ EMCカンパニー 原 裕、石田 圭、玉井 良之典
DXって流行り言葉のようになっているけど、ぶっちゃけ何のこと?
原:このプロジェクトは、お客さま(ANA Xさま)、インテグレーション支援パートナー(メンバーズ)、ツール提供パートナー(アドビさま)が三位一体となって、顧客エンゲージメント・プラットフォームである「ANA Travel & Life」をリニューアルしました。アドビを使い倒して、3~4ヵ月で大量のページを整理してコンポーネントをたくさん作り、レコメンドロジックも考えました。
最初は、「DXって何ですか?」という問いです。書籍も多く出版され、流行り言葉になっていますが、「ぶっちゃけ何なの?」か伺っていきます。まずは、安西さんいかがでしょう?
安西氏:アドビの見解ですが、企業として何かデジタル投資する際に、過去に2つの波があって、さらに今大きな波が来ている状態です。
過去にあった波としては、1つはBack Office Waveと表している「ERP(Enterprise Resource Planning)」です。そして、Front Office Waveと表している「CRM(Customer Relationship Management)」のお客さまとコミュニケーションをとるための仕組みです。現状は、Experience Business Waveと表す「CXM(Customer Experience Management)」というお客さまの体験に対して、いかに企業が投資できるのかという新しい波が来ています。これからのDXについては、「CXM」の領域にどれほど入っていけるのか・企業として準備できるかが大事なポイントです。
原:なぜ3つ目の波が来ているのでしょうか?
安西氏:第1部で新谷さんがお話しされたように、デジタルファーストになってきている部分があるかと思います。これまでのWithデジタルという考え方から、デジタルファーストという考え方への変化はこれから普遍的なものになると思います。
さらにこのコロナ禍で、デジタルはすごく進みました。フィジカルの世界でやってきたことを強制的にデジタルでやるようになったんですね。コロナ禍で、はじめてデジタルで買い物をした方に、コロナが落ち着いたらどうしますか?と調査した結果、そのままオンラインで継続する・オンラインと店舗を併用利用する方で9割を占めたんですね。何かしらでデジタルを使う状態になっているというのが、現状かと思います。
原:デジタルはツールなので、経験価値を設計して出せないとダメということですよね?
安西氏:おっしゃる通りですね。企業競争力の話にもつながるのですが、これまでは製品を出すこと、その上にサービスを足していくことが競争力でした。現状はそれだけではダメで、体験自体を差別化要因としていかないと、企業として勝負できなくなってきている点も大きいかと思います。
原:そうですよね。新谷さんはどのように捉えていますか?
新谷氏:事業目線で考えると、デジタルは「お客さまとコミュニケーションを図る場」と考えています。安西さんがおっしゃるように、場がリアルからデジタルに変化していることを捉えて、今回のリニューアルでも、現在もしくはこれからを先取りするような場を提供することが求められていると感じました。大切なのは、場をきらびやかにするのではなくて、場を通じて何をお届けしたいかだと思うんですよね。僕個人としては、デジタルトランスフォーメーションが進んでいく中でも、オフライン時代と同様に、企業として発信するキーメッセージなどの極めてウェットな部分は残り続けると考えています。
原:「ANA Travel & Life」はANAさんがリアルで提供している顧客体験価値をどのように出すのかが最重要ポイントで、その中でアドビのあらゆるツールを使いましたよね。
新谷氏:そうですね。「ANAらしさ」や「お客さまはANAに何を求めているのか」を改めて深堀りして、それをデジタルという場で表現することに気を配りましたね。
原:では、メンバーズはDXをどう考えているか、石田さんお願いします。石田は今回このプロジェクトでプロジェクトマネージャーを担当しました。
石田:経済産業省がつくった「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」という非常に長い定義があります。
この言葉のすべてを理解することは難しいので、3つの観点でこの定義を簡単に説明できないかと考えてみました。
まず、企業さまの視点で考えると、①ビジネス活動におけるアナログ作業をデジタル活用していかにコスト削減させる ②エンドユーザーとの関係性を強化して企業のビジネス成果を向上させる ③ビジネスモデルを変革させて時代に合わせた新たな価値・ポジションを確立させる の3つが企業におけるDXの考え方だと思います。
エンドユーザーの視点では、デジタルを通じて、日々の生活に豊かさや充実感、ときには余白を与えるような顧客体験を感じられることが大事なのかなと思います。
最後に、我々のようなデジタルビジネス会社の視点では、今まで蓄積してきたノウハウ・経験をフル活用して企業さまとエンドユーザーをしっかり繋げることだと思います。この役割がある種の存在意義かなと。
原:色んな考え方があり、これが正解というものはないと思いますね。ただ今日のスピーカーに共通するのが、「顧客の体験軸」がとても大切であると認識している点ですかね。BtoCはもちろん、BtoBの企業もつながる顧客が存在するので、同じように考えられそうですね。
安西氏:そうなんですよ。アドビとして、ABX(Account-Based Experiences)というものを使っていますが、BtoBは対企業さんとのコミュニケーションでありつつ、実はそこに人がいるので、体験をお届けすることがやはり重要になります。
原:「ANA Travel & Life」は、単なるメディアから脱却してプラットフォームに移行しますが、BtoBもやる予定なんですよね?マイレージのパートナー企業や地方と組んで、ノーエアー領域(航空事業以外でのビジネス)でBtoB事業を行うことは非常に重要ですよね。
新谷氏:重要ですね。これまで、マイレージをフックに色んな企業さまとお取り引きがあるのですが、マイレージ以外も含め、特に地域ビジネスはまだまだ伸びる余地があると感じています。
DXはどうやったらうまくいく?逆にこれをやってしまうとうまくいかない!?
原:では、次の質問にいきます。DXはどうやったらうまくいきますか?逆にこれをやってしまうとうまくいかないといった話を伺いたいと思います。
我々の経験値からいくと、せっかくアドビの良いツールを入れても使いこなせていない企業さまがたまにいらっしゃいます。今回ANAさんもアドビのAdobe Experience Manager(以下、Experience Manager)とAdobe Target(以下、Target)をとにかく使い倒そうという発想が最初からありました。
新谷氏:F1カーに乗ってコンビニに行っていたレベルから、F1カーに乗ってサーキットに出たと自分で評価しています(笑)大事なのは、ツールの理解の前にお客さまに届ける体験価値の定義かと思います。例えば、Webサイトという場において、予約をお持ちの方とお持ちではない方へのコミュニケーションは、絶対的に変えるべきですよね。それぞれのお客さまにANAとして提供すべき体験ってなに?という情報を設計するところから始めるべきだと思います。
世の中にあるソリューションを使い倒せる知識を持った方はたくさんいらっしゃるので、その方たちからの「何をしたいんですか」という問いに対して、提供すべき体験価値が定義されていれば、しっかりと回答できると思います。逆にそこがブレると何も実現できないんじゃないかと思います。
原:安西さんは、どうでしょうか?
安西氏:お話にあった「体験をどう定義するか」と並行して考えるべきなのが、「組織」だと思っています。体験を定義しても、一部の人がリードしてその他の方がついていけないと一貫した体験が提供できません。継続性をもって体験提供するためには、組織を考える必要があります。
また、体験設計でよくいただく話が、カスタマージャーニーは作っているけれど、そこから先に進めていないという点です。例えば、「航空券の予約」に対して次に何をしてもらうかは定義できているんですね。
先に進むためには、いくつかポイントがあります。1つ目は、僕らは「Experience Driver」と呼んでいますが、航空券の予約にどんな体験があるとさらに良くなるのかという定義を考えることが大切です。例えば、利用できる便をすぐに検索できる・最適な便がすぐに見つかるなどもひとつの体験と捉えていきます。
2つ目は、どのタッチポイントでExperience Driverを利用できるのか?そのトリガーは?といった点と、それを提供するためにどんなデータがあれば実現できるのかという点です。
このあたりが整理できていないことが多いので、何のデータをとればいいのかわからなくなったり、逆に不安だからデータは全部ため込んだりといった動きになってしまうわけです。
原:やっぱり、どこかの部署単体ではなく、横断的にやらなくてはいけないですよね。カスタマージャーニーを考える際に、自分たちの部署・プロジェクトだけではなく、その前後の関わりを合わせて体験設計するべきですね。横断的に何のためにやるのか考えていかないと、途切れ途切れなものになってDXというより部分最適化になってしまうかと思います。
安西氏:おっしゃる通りで、クロスチャネルとオムニチャネルの違いを意識した方がよいかと思います。クロスチャネルは、それぞれのチャネルでデータを取得して、データが一ヵ所にまとまってはいますが、結局はチャネル毎に最適化されているものです。オムニチャネルは、データを貯めつつ、アプリからアクセスした直後にブラウザからアクセスするようなチャネルを横断した動きに対しても一貫したコミュニケーションがとれるものです。顧客体験というものを考えるのであれば、オムニチャネルにシフトしていくべきかと思いますね。
原:クロスチャネルは、企業の側からエンドユーザーにアプローチをしていて、オムニチャネルはエンドユーザーの方から企業に矢印が向いているように思えますね。
安西氏:私たちも最近よく言っているのは、お客さまがチャネルを選択する時代になっています。そのなかで、企業がどのように一貫したコミュニケーションをとれるかという部分に入っていかないといけないですね。
アドビはどうやったら使いこなせるのか?
原:次は、売れっ子の安西さんに来ていただいているので少しアドビの話も(笑)アドビはどうやったら使いこなせますか?という問いに入ります。
まずは、このプロジェクトでアドビを使い倒した当社の玉井から、どんな使い方をしたのか・どういった課題をどう克服したのか話してもらえますか?
玉井:Experience ManagerとTargetを使い倒す担当をしていた玉井です(笑)多くの企業さまで、Experience Managerで構築している・Adobe Analyticsで計測している・TargetでABテストをしているといった部分的な導入はしているかなと思います。ただ、ビジネスをグロースするために導入しているはずですよね。なので、きちんと運用することを見据えてどう使っていくのかという設計をやらなければいけないと思っています。
例えば、「ANA Travel & Life」で利用しているExperience Managerはカスタマイズすればオペレーションコストがものすごく下がると感じました。TOPページは、記事そのもののページを作っておけば、あとは全部自動で記事を出す設計をしました。
また、パーソナライズしていきたいという与件があったので、Targetにもデータ連携をしました。2,000の記事をTargetに手動で登録する・今後も更新していくとなると人間では無理です。なので、裏側でデータ連携していく仕組みを導入しました。
具体的には、「データレイヤー」という仕組みを活用して、エンドユーザーの記事へのアクセスをトリガーに、記事の情報をローンチ(アドビのソリューション)経由で、Targetに送信しています。データレイヤーの情報は、AAやその他サードパーティのソリューションにも連携ができます。今回はレコメンデーションを活用したかったので、連携する情報をただ送るのではなくて、きちんと構造的に使いやすい形にしました。
こういった設計の発想は、運用の観点がないと考えるのが難しいと思っていて、外部的にも内部的にも理解してもらうのに苦労しましたね。
原:運用できないと、グロースしないですよね。構築するタイミングから、運用設計のメンバーも入ったことはポイントだったかもしれないですね。
あと、玉井も言ったようにANAさんでもアドビを個別に使っていたので、Experience ManagerとTargetを連携させるのは、やれそうでやっていなかったんですね。アドビさんのいいところは、統合するとより使いやすいように設計されているので、連携したことによって効果があったと思います。
安西氏:先ほど新谷さんもおっしゃっていた「何をしたいか」を明確にしていただくのは、非常に大切なポイントです。
以前コンサルタントをしていたときに、アメリカの企業は「私はこれがやりたいんだけど、あなたのところのツールでやるにはどうしたらいい?」という質問が割と多いんですね。日本に帰ってきて、コンサルタントとしてお客さまのところへ行くと「私たちは何をしたらいいですか?」という所から入っていく企業が多いです。やりたいことを少しずつでも明確にしていく・もしくはそこから一緒に考えていきましょうということかなと。そこを飛ばしてしまうと迷走してしまう可能性があると思いますね。
場合によっては、What’s newなことを期待しちゃうこともあるんですね。車を作ったことはないけど、いきなりテスラを作りたいですというように。まずは、自転車をつくることから始めて、次にバイクに行きましょうよと、徐々にステップアップしないと組織がついてこないという問題もあります。今回のリニューアルも、これまで新谷さんや関係者の方がとても努力していただいたこともありますが、一方でこれまで積み重ねてきたベースもあるかと思います。積み重ねをきちんとやっていくことが大事なポイントかなと思っています。
新谷氏:実は、お恥ずかしいのですが、ANAはテスラを作りたいと言い続けていて(笑)キラリと光るツールが世の中にたくさんあるので、そのツールを見つけてきてジャケ買いしては、高度なロジックを1本入れて満足していたという過去もあります。徐々に追いついてきてはいますが。
今回の「ANA Travel & Life」は割と間口の広いWebサイトなので、ターゲティング・セグメンテーションを突き詰めるよりも、来訪者全体に係るロジックとしては、こういう情報がいいよねという整理をして、要件を定義し、実装しました。この点では、ツールの使い倒しはできたかなと思います。
これが、Experience Managerを使った同じプラットフォームで成り立っていますので、「ANA Travel & Life」だけではなくて、他のところにも横展開できるのは、組織の中でも使っていきやすいと思っています。
これからDXに取り組む方に向けて、まずやってほしいこと
原:拡張性があるのは非常にいいですよね。最後に、これからDXに取り組もうとしている方に一言お願いします。
石田:今回のプロジェクトで実体験として学んだのは、DXはあくまで手段ということです。DXを通じて、何を実現したいのかというビジョンがまずは大事なんだと。そのビジョンを一人で描くのではなく、社内の関係者や我々のような社外のパートナーと協力いただけると良いかなと思います。とはいえ、明確なビジョンがまだ持てない企業さまもいらっしゃると思うので、ビジョンを描くところから我々としてもお手伝いできればと思います。
原:今回のプロジェクトでは、要件が決まってやってくださいという状態ではなく、実際に何を目指すのかといったディスカッションから入らせていただき、すごく僕らも理解ができて良かったなと思っています。
玉井:依頼されたタスクだけではなくて、僕ら自身が課題解決するソリューションである必要性を感じました。それを実現するためには、お客さま企業のことを理解して、議論しなければいけないと思っています。ANAさんは、パートナーである僕たちにもたくさんの情報をインプットしてくださり、構想段階からたくさん時間を使って議論をしたので、進む方向も明確でした。自意識過剰かもしれませんが、同じ目線で取り組めたと思っています。アドビさんもソリューションを提供する側として、ディスカッションにも入っていただき、3社で同じ方向を向いて進んでいけたので、そういった形で取り組まれるといいのかなと思いました。
原:いいツールといいパートナーを選びなさいということですね(笑)冗談はさておき、新谷さんのもと、ワンチームでやらせていただいたので無駄もなかったですし、議論した分理解も深まりました。納期に納められるかと思うときもあったのですが、それを口にせず本当にローンチできたんだなと。
安西氏:顧客体験を中心に考えていくときに、これまでと違って、何か課題があってそれを解決しましょうというソリューションではないことが多いんですね。どちらかと言うと、何かビジョンをつくってそこに向かって差分とどう埋めていくのかが、顧客体験の部分では非常に重要です。なので、関係者でビジョン・ゴールを一旦作っていただくと、推進しやすいと思っています。見直していくのは全然いいことだと思うので。
原:バックキャスティングの考え方ですよね。なりたい姿に対して、現状の足りないことは何かを考えるという部分で、DXはこれまでの積み上げ型とは異なるのかもしれないですね。大きくトランスフォームするという部分が入っていかないと、ただのデジタル化になってしまうので。
新谷氏:あえて今日話したこととは違う切り口でいうと、まずは有識者に相談することが有効だと思います。そして、相談するときに手元に用意していただきたいのが、何のデータを持っているのかです。そうすると、取り組みがぐっとスムーズになるかと思います。
原:やはりDXをやるときに、データはキープレイヤーですよね。
新谷氏:そうですね。結果を図れるのは、リアルとデジタルの大きな違いだと僕は思っているので、どういうデータがあるのかは箇条書きでいいので準備して、相談するといいと思います。
原:今回でいうと、単にメディアを改善したわけではなく、本当に大きく生まれ変わりましたよね。且つ、ANAさんとしてエアライン以外にも力を入れていこうという大きなトランスフォーメーションだと思うので、目的が非常に明確でしたよね。
新谷氏:そうですね。明確なビジョンがあって進められたと思います!
質疑応答
ここからは、セミナー受講者さまからいただいた質問にパネラーが回答しました。
質問①
大きなビジネスモデルの変革には、社内の文化、経営層の意識などを、大胆に変革する必要があったと思いますが、苦労された点や、とても効果的だった点など、教えていただければ助かります。
新谷氏:今回、ANAとして航空事業の一本足からの脱却するという経営のトップメッセージが全社に伝えられました。そのトップメッセージがブレなかったのは、僕のようなイチ担当者が推進するにあたって、やりやすかった要因ですね。ただ、こういったケースは大企業になればなるほどあまりなくて、経営陣個々でも思惑があったり、部署を跨げば違ったゴールをもっているような状況が大半。ステークホルダーとの会議を密に持つというウェットなやり方が、実は大事だと思います。
安西氏:企業の文化や方針によって色んな方法がありますが、トップダウンでやる場合は、横串横断でやっていく方法や、1~2年後にどういったものを叶えていきたいかというビジョンストーリーを一緒に作らせていただくことがあります。そのストーリーを使って、社内を啓蒙していくこともあります。
一方で、部署横断でディスカッションというのはボトムアップでもできます。その際、KPIは部署ごとに違ってきますので、共通言語であるエンドユーザーに対して何ができそうかというディスカッションをしつつ、そこから一緒にできることを少しずつ広げていくやり方もあります。
原:われわれもパートナーとして、上流なところでコンサルするというよりは、提携しているデンマークのデザインシンキング会社のメソッドを使って、その企業のパーパスは何かといったワークショップをやることが増えています。ある企業では、1,000人くらいを対象にワークショップをやり続けて、企業の文化を変えていって、その結果がデジタル施策に落ちてくることもありました。
安西氏:意外とエンドユーザーの情報を社内で整理できていないことが多くあります。「エンドユーザーに対する皆さんの価値って何ですか?」と問いかけるとフリーズしてしまう企業さまもいらっしゃいます。けれど、そこをきちんと定義することで、その価値を提供するために何をすればいいのかと考えるといいと思いますね。
質問②
DXを推進する際にお客さま視点でいつ何をどうやって提供するかを整理するためにカスタマージャーニーを作成すると思います。カスタマージャーニーを作成していくと、最終的にはお客さまが使いたいチャネルやサービスを選択することができる状態を目指すことに行きつくと思いますが、企業としてチャネルやサービスすべてに対しての投資はできないため、取捨選択が必要になると思いますが、どういう軸で取捨選択するのがよいかご教授いただけますと助かります。
新谷氏:ANAは、チャネルとしてアーンド・オウンド・ペイド全てもっているので、取捨選択はしていないですが、役割は明確化して、役割毎に重い・軽いは付けています。すべてのチャネルで同じ情報を発信することが求められることもありますし、一方でそれぞれのチャネル特性もあります。
例えば、僕はTwitterは突発的な情報発信が求められる場で、エンゲージメントを稼ぐ必要はないと思っていて、そういったチャネルではエンゲージメントに資する活動はコストダウンしています。Webサイトなどの網羅的に情報をためておく必要がある場には、どの程度リッチに見せるかという取捨選択はありますが、お客さまのバイブルになるものとして重視しています。
原:チャネルを選ぶのはエンドユーザーなので、どれくらい各チャネルへのニーズがあるか次第かと思いますが、標準的に提供するもののレベルは上げていけると思うんですね。まさに、Experience ManagerやTargetをつかうことによって、デジタルデバイス毎のオペレーションコストを下げることができます。さらに、例えば客室乗務員がお持ちのiPadに情報を繋げることも可能じゃないですか。デジタルを使ってそもそものオペレーションコストを下げつつ、役割をアドオンしていくということかなと思っています。
新谷:そうですね。チャネルとしてコスト効率化を図ることは前提にあるかと思います。
安西氏:チャネルとサービスで分けてお話しすると、チャネルは今回Experience Managerなどもお使いいただいていますが、Webサイトを作って配信するだけではなくて、コンテンツをコンポーネント単位でAPIで配信することもできるようになってきています。チャネルが増えたときでも、コンテンツをそれぞれのチャネルに合わせて出るようにしていくことが大事になってくるかと思います。
一方で、サービスは何でもかんでもやるのではなく、自社のサービスと相乗効果があるかや購買と購買の間をきちんと埋めるためのサービスであるかといった部分を定義して、やっていくべきかと思います。分かりやすい例だと、ナイキさんがやっている「Nike Training Club」「Nike Run Club」は、単体で無料で使えるトレーニングプログラムに見えますが、これがあったことでコロナ禍でもエンドユーザーとのエンゲージメントを得続けて、製品の販売に繋げられたので、ナイキさんは売上をあげているんですよね。
質問③
「CXM(Customer Experience Management)」の顧客体験の実例を教えてください。
安西氏:やはりナイキさんは分かりやすいですね。「Nike Training Club」「Nike Run Club」の接点は持ちつつ、実は店頭とオンラインではそれぞれ個別に価値を定義づけしているんです。
例えば、オンラインでは「Nike By You」という靴のカスタマイズができ、オンラインでできるメリットになっています。店舗に行くと、一部店舗にはなりますが、ランニングの検証ができたり、オンラインで事前に予約をすると相談にのってくれる店員さんをアサインしてくれて、その人とコミュニケーションしながら決めることができます。それを統合しながらやっているので、非常にわかりやすい顧客体験と各チャネルに存在意義を持たせている例かと思います。
原:今回のプロジェクトでも、顧客体験をリアルとデジタルの両方でできているところをベンチマークしていました。例えば、アップル・Airbnb・ナイキ・スターバックス・アマゾン・無印良品などです。いずれも、リアルでの顧客体験がいいと僕らが体験して感じたところをピックアップしています。なので、ご自身で顧客体験がよいと感じたところがどういったことをしているのか見るのも有効ですね。
安西氏:他社さんを調べることは非常に大切ですが、出来ていない企業も多いです。同業他社だけではなく、例えばテスラを作りたいというのであれば、移動に着目して参考になる企業を見ていくのはすごく重要だと思います。
今後もメンバーズでは、気候変動問題への取り組みや、社会視点を持ったDXを実践されている企業さまの取り組みをご紹介するセミナーを開催してまいります。ご期待ください!