デジタル広告の内製化トレンドの背景
日本のデジタル広告市場は大幅に成長しており、2021年にインターネット広告がマスコミ4媒体広告を上回って以降、その差が広がるなど、顧客接点のデジタルシフトが急速に加速しています※1。その中で、デジタル広告運用をおこなう企業のうち約8割が代理店を活用していますが、広告費に比例する手数料の肥大化や、広告アカウントなどに蓄積されるマーケティングデータのブラックボックス化、ノウハウが自社に蓄積されないなどの課題が生じているのが現状です※2。
一方で、デジタル広告の運用ノウハウは機械学習などテクノロジーの進化により平準化しており、適切な設定をすることで安定的な成果創出が可能です。つまり、従来必要とされてきた広告代理店独自のノウハウが徐々に減ってきており、企業側が代理店へ委託するメリットは、外部リソースの活用でしかなくなってきていると言えます。
そんな状況の打開に向け、広告代理店側も肥大化した手数料を原資に幅広い領域に手を出していますが、必ずしも得意な領域とは限らないことから、ミスコミュニケーションが多発しています。メンバーズにご相談いただく内容として特に多い内容は以下の通りです。
デジタル広告委託時のよくある課題
- 出稿額が増えるほど、代理店に支払う手数料が増える
- 広告代理店フィーを極力抑え、限られた広告予算を広告費に回したい
- 代理店任せで広告運用におけるノウハウが社内にない
- 自社理解が浅い広告代理店に運用を任せることへの不安がある
- 自社にデジタルマーケティングの機能を持ちたい
- 広告代理店からのレポートや提案に不満がある
- 広告運用の経験がなく、的確な意思決定と指示出しが困難である
- ベンダーロックインとなり広告運用の適正判断が難しい
- 事業判断をスピーディーに広告に反映できていない
- 代理店の場合、求めているスピード感に合わない
- キャンペーンの追加やクリエイティブの変更に時間がかかる
- 代理店とのコミュニケーションロスが発生している
- 広告アカウントの中身が開示されず、運用がブラックボックス化している
- 運用を内製化したいが、担当者に広告運用の経験がない
上記の中でひとつでも当てはまっている場合は、デジタル広告運用の内製化が最適解になる可能性が高いです。
デジタル広告は内製化する時代
前述した社会変化やテクノロジーの進化により、デジタル広告運用の内製化は必然の流れになり得えます。デジタル広告を内製化することによって企業が享受できるメリットは、大きくは以下3つに整理できます。
運用改善サイクルの抜本的高速化
デジタル広告運用というマーケティング機能を社内に保有することで、代理店とのコミュニケーションや調整作業にかかる時間や手間を抜本的に削減できます。従来であれば、代理店から月1回の広告レポートの報告などを起点に、数ヵ月スパンでのPDCAがまわりますが、内製化することで進捗数値が日々見えるようになるため、デイリーでもPDCAが回せるようになります。
委託時と比べて抜本的に改善の手数が増えるため、高速な広告運用のPDCA推進と、それを社内でおこなうことでマーケティングと一貫した迅速かつスムーズな打ち手の実行が可能になり、着実に成果改善に寄与します。
ナレッジ・データの蓄積
委託時には広告アカウントの中身がブラックボックスになっているケースが多く、広告レポートなどの断片的な情報からデータを読み解く必要がありました。この構造こそが、ベンダーロックインの環境をつくり、社内のメンバーよりも委託代理店側が常に情報を持っているため、企業側では的確な意思決定と指示出しが困難でした。
内製化に切り替えることで、代理店に蓄積されていた広告運用のノウハウやマーケティングスキルを社内に蓄積することが可能なため、社内のリテラシー向上と効率的なマーケティングの拡張に寄与します。
広告データも同様で、自社の広告アカウントに蓄積されたデータを、他のマーケティングデータと組み合わせることで、将来的なマーケティング戦略を策定することも可能です。
代理店手数料の削減
内製化のメリットとして一番分かりやすいのが代理店手数料の削減です。平均的には広告費の20%と言われる手数料やコミッションを削減できるため、それを追加広告費として投じてさらなるビジネス成果に繋げたり、内製化の原資として人材・体制などに充当することも可能になります。
これはインターネット広告費が肥大化している企業であればあるほど恩恵がある一方、委託代理店側も肥大化した手数料相当の体制が伴っていない場合も多く見受けられます。広告費が年々高くなっている企業は、内製化を選択する前に、委託会社へ体制増強の要望を出すことも、成果改善のひとつのあり方かもしれません。
これらを裏付けるように、メンバーズで広告領域の内製化支援をした事例においては、総じてコスト面でも成果面でも改善が見られ、マーケティングのDXまで取り組みが広がっている企業も増えています。具体的な事例は後述する
成功事例から学ぶ内製化のポイントで詳しく紹介しますが、なぜ内製化の取り組みが成果まで改善させることができるのか。その理由は大きく2つあります。
手数料型からリソース型への転換
従来の手数料・委託型モデルでは、広告費が大きくなればなるほど手数料の不整合性が顕著になり、委託先への不信感に繋がりやすいモデルでした。これはプラットフォーム側の機械学習の進化もありますが、従来の枠売り広告のビジネスモデルを、運用型デジタル広告にも踏襲していることが大きな要因です。
これを内製型、いわゆるリソース型に変革することで、従来の変動費を固定費化することができ、稼働工数を明確化して運用の手数を増やすことができます。これはインターネット広告費の大小にも影響しますが、総じて多くの企業に当てはまる事象です。そのような企業のデジタル広告運用体制の最適解は、「リソース型」にあります。
自社顧客をもっとも理解した内製体制での運用
当たり前ですが、委託代理店よりも自社社員のほうが商品やサービス、そして顧客に精通しています。自社理解が浅い広告代理店に運用を任せることへの不安は少なからずありますし、その広告代理店がマス広告やデジタル広告など複数媒体を請け負い、クライアントを全く知らない下請けに運用を任せるといったパターンもあるでしょう。
内製で自社の顧客を熟知した社員が運用するからこそ、デジタル広告のターゲティングや訴求の精度が高まり、それが成果改善に繋がるというのは必然の流れです。
コスト削減だけではなく成果面でも改善が期待できる内製化は、今の時代のデジタル広告運用の最適解です。内製体制を構築することで、従来のCPCやCPAなどの広告指標だけではないビジネス成果ドリブンなマーケティングの推進が可能になり、成果の最大化や、マーケティングの高度化が図れます。広告運用ノウハウが平準化した今だからこそ、内製化によって享受できる恩恵は大きいでしょう。
一方で、企業側にとっての内製化の合理性は高くなっているものの、切り替えが進まない理由や課題もあります。次章ではその課題を深堀していきます。
デジタル広告内製化における課題とその対処法
デジタル広告運用と内製化の親和性が高まる一方で、内製化ニーズのある企業では、専門人材の不足や、成果を達成できるか不安といった課題を抱えているのが現状です。ここでは、「人材」と「成果」にフォーカスして課題と対処法を紹介します。
内製化するためのリソース課題
2023年3月15日、株式会社Shirofuneと株式会社キャスターが合同で実施したBtoB企業のマーケティング職や広告・販促職の方109名を対象「BtoB企業のデジタルマーケティングにおけるWeb広告運用体制に関する調査※3」のアンケート結果では、デジタル広告運用領域の内製化における親和性は高いものの、運用体制を切り替えない理由は「運用経験者の採用・確保ができないこと」がもっとも大きなハードルになっています。回答では「自社で担当者を育成する必要があるため」や「社内でリソースを割く必要がなく、広告の効果が得られるため」といった、「リソース面」に関する項目が多く選択されており、広告運用ができる人材の確保が自社で難しい場合、外部の代理店に依頼するケースが多いことが分かります。
一方で、採用マーケットも厳しい状況が続いており、特にデジタル人材は売り手市場が継続しており、2030年には約60万人が不足すると言われています。経験者の採用ができることが一番の近道ですが、経験者の採用も難しいのが現在の市場です。
かつ、広告運用と言っても必要なスキルセットは幅広く、すべてを内製化するためには相応のスキルと経験、そして体制が必要になります。
代理店委託時の成果を担保できるか不安
広告代理店というプロの運用から、内製化で社内リソースの運用に切り替えるという意思決定は成果面で躊躇してしまいます。いくらプラットフォーム側の機械学習が進化しているとはいえ、特にデジタルマーケティング依存率の高い企業経営者、担当者にとっては難しい判断だと言えます。ここでは、想定されるリスクの一部を紹介します。
CPAの高騰、あるいはCPA最適化までの長期化
広告アカウントの引継ぎが不可の場合は、全アカウント再構築となり、設計、入稿、審査が必要となります。広告やテキスト文言、パラメーター、タグ設定などすべて再設計が必要となり、最適化学習がリセットされるため、一時的に成果が落ちる可能性があります。
広告品質の低下
内製での広告運用人材のスキルや知識が不足する場合、広告の品質や成果が低下する可能性があります。
教育、体制構築、管理のコスト
体制の維持・継続が伴うことが前提となり、広告領域の人員ローテーションが激しい場合は、スキル・ナレッジが蓄積できず、都度教育コストが発生します。安定しない場合には広告品質の低下へ影響します。
内製化時のガラパゴス化
デジタル広告は常に変化しているため、最新の情報を収集し続ける必要があります。内製化運用に終始することで、外部の情報やトレンド、他事例のナレッジ共有が得られなくなる可能性があります。
これらの課題に対する対処法としては、できるだけ初動の段階で内製化推進における体制構築や成果の創出・改善を伴走する内製化支援企業とパートナーシップを組むことを推奨しています。
初動で不足する全体の広告戦略や体制構築、オペレーションの実行など、実務を通して内部へのスキルトランスファー、中長期的にはパートナーリソースと内製リソース比率のバランスを最適化し、パートナーも含めた仮想の「協創インハウス体制」を構築することが、もっとも現実的で効果的な解決策になり得ると考えています。
私が属する株式会社メンバーズの「
フォーアドカンパニー 」では、デジタル広告内製化による削減コストを原資に、企業のデジタル広告の持続的な成果創出とDX投資のROI最大化に貢献しています。少しでもご興味を持っていただけましたら、お気軽にご相談いただけますと幸いでございます。
成功事例から学ぶデジタル広告運用内製化のポイント
デジタル広告の内製化を成功させるためには、成功事例から学ぶことが重要です。成功事例から得られる知見やベストプラクティスを活用し、自社に最適な戦略と領域の選定をおこなうことが内製化成功のポイントとなります。また、機動性や柔軟性を持った体制やデータ駆動のアプローチなども重要な要素です。
単に手数料などのコストを下げることだけを目的とした内製化への切り替えは、上位に来る失敗例です。マーケティング領域の中長期的な内製化戦略と広告戦略、それに伴った体制をいかにつくりあげていくか。ここでは、実際にデジタル広告運用の内製化に成功されている2つの事例を紹介します。
西日本シティ銀行さまの広告内製化への取り組み
デジタル広告内製化でコスト4割削減、申込件数1.6倍を実現しマーケティング投資のROIを改善
株式会社西日本シティ銀行さまとの「デジタル広告内製化」の取り組みにおいて、前年比でコスト4割削減、デジタル広告経由のローン申込件数1.6倍を実現し、マーケティング投資のROI(投資対効果)を改善した事例です。
九州カードさまのデジタル広告内製化への取り組み
広告運用経験なしでもOK!兼任でも内製組織はできる。九州カード株式会社様の広告戦略と人材育成
九州カード株式会社さまとの「デジタル広告内製化」の取り組みを支援させていただき、2024年4月時点にてCPA(申込獲得単価)を半分以上削減、申込件数を約3倍に伸長させることに成功した事例です。
上記事例からも、デジタル広告は内製化してナレッジを自社に保有する時代になりつつあります。さらに内製化を推進することは、企業として必要な意思決定事項です。未経験の社員さまを中心に内製化を推進し、外部委託時の倍以上の成果を出す成功のカギは、組織に必要なスキルを定着させることです。本連載の第2回では、スキルトランスファーのポイントや体制構築などの「戦略的アプローチ」について解説します。