コラム

PMOとPMの違いは?高度化するプロジェクトを支えるPMOマネジメント

作成者: 株式会社メンバーズ|2024.06.26

従来型のプロジェクト管理には限界が来ている!

プロジェクトの達成に向けてチームの結束を強め、納期を遵守しながら進む――これはプロジェクトマネジメントの典型ですが、現代はあらゆる業界でテクノロジーが進展し、マーケットの変化は激しく、ユーザーニーズも多様化する一方です。

2021年に改訂されたPMBOKガイド第7版でも、プロセスを重視して成果を出すマネジメントに加え、価値の提供に重きが置かれ、さまざまな環境に適応しながら提供できる価値を日々アップデートしていく(テーラリングする)ことが重要視されています。従来のように、PMがプロジェクトを一手に仕切っていくことは容易ではありません。

まず、プロジェクトの複雑化・細分化です。前述したプロジェクトのあり方に加え、自社のメンバーだけではなく、クライアントやパートナーなど多企業が参画する大規模プロジェクトが増えてきました。チームマネジメントやチームビルディングの観点だけではなく、多様なメンバーやパートナーが混在する中でコミュニケーションを重ね、ゴールとスコープを統一し、プロジェクト管理を進めていかなければなりません。

また、人材不足の観点からひとりのPMが複数のプロジェクトをマネジメントすることも多く、現代のプロジェクト管理には、次のような課題が山積しています。

    • プロジェクトに関わるメンバー、パートナーとのコミュニケーションが確保できず、ステークホルダー調整にリソースを割かれる
    • スケジュール管理やコスト管理だけではなくプロセス管理やスコープ管理の役割も加わるため、PMがひとりでカバーできない
    • 管理手法やツール、フォーマットの不統一など、効率的なプロジェクト管理・推進方法が確立されていない
    • 組織内でベストプラクティスの共有不足があり、プロジェクトごとのサイロ化が進む

プロジェクトを進行、リードするPMの負荷が増す中で、組織内でプロジェクトが分断され、全社統制が取れていない。PMが単独で立ち向かうプロジェクトマネジメントの限界が見えてきました。ここで注目が集まるのが、上記の課題解決をサポートする存在、すなわちPMOです。PMOは一体どのように違うのか、どのような役割を担うのかを明らかにしていきましょう。

PMOとは何か、そしてPMとの違いは?

PMO(プロジェクトマネジメントオフィス:Project Management Office)とは組織全体のプロジェクトマネジメントを支援する組織、またはポジションです。

ここまで解説してきたように、プロジェクトマネジメントの難易度が増している中で、PMを支える役割が求められるようになりました。日本では2000年代初頭からシステムインテグレーターが社内のプロジェクトマネジメント標準を定めたり、プロジェクトの進捗を定期レビューしたりする仕組みを整え、それらの活動を担当する専門ポジションとしてPMOと名づけたポジションを導入し始めました。以来、プロジェクトマネジメントの領域で関心を集めています。

PMは個別プロジェクトの進行や管理を担当しますが、PMOは複数のプロジェクトの支援を担当するケースもあります。つまり、PMは個別プロジェクトの管理が役割であり、PMOはプロジェクト管理を横断的に支援するのが役割と言えるでしょう。組織によっては、PMOが全社的なプロジェクトについてプロセスの改善や標準化を進め、全社的な統制を支える役割を担うこともあります。

PMとPMOの役割、ミッションの違い
  役割 ミッション
PM
(Project Manager)
    • プロジェクトの進行と納期、予算、品質などの管理
    • プロジェクトの最終責任者
    • プロジェクトをスケジュールに沿って進行して品質を保証し、成功に導く

PMO
(Project

Management Office)

    • リソースの効率的な配分やプロセス改善によってプロジェクトのマネジメントを支える
    • 統一化や標準化などによって組織全体のプロジェクトの管理プロセスや品質を向上させる
    • プロジェクトマネージャーを支援してプロジェクトを成功に導く
    • プロジェクト環境を整備し、組織内のあらゆるプロジェクトを成功に導く

上記で整理した通り、PMOは統括責任者であるPMがマネジメントに集中できるように支える「プロジェクトサポート」と、組織全体のプロジェクト環境を考える「プロジェクトマネジメント品質の整備・向上」を担います。

PMOはビジネスを飛躍させる原動力になる

PMOの役割は前項で整理しましたが、具体的な機能、担当業務は多岐に渡ります。PMの意思決定に必要な情報の整理やチーム内の可視化など、プロジェクトの生産性を高めるためにさまざまな業務を担っていくのです。

これらの具体的な役割が機能することで、プロジェクトマネジメントは円滑になっていきます。

冒頭に挙げたように、組織ではプロジェクトが縦割りになりがち、つまりサイロ化が課題となります。PMOが標準化を支えていくことで、組織のあらゆるプロジェクトに一貫性を持たせることができます。こうした標準化とプロセスの改善によって、プロジェクトの成功率を上げる効果も期待できるでしょう。成功プロジェクトのケーススタディ化、モデル化も視野に入ってきます。

また、組織での「内製化」を考える上でもPMOが果たす役割は見逃せません。自社(インハウス/内製化)でDXプロジェクトを推進するリーダー、マネージャーは「組織の問題でプロジェクトが進まない」という課題を抱えることが多くなります。PMOは内製化プロジェクトでも各所の調整を進め、円滑な進行が期待できます。組織のサイロ化や縦割りといった課題をクリアするために、PMOというポジションを置くことがポイントになるのです。

さらに、経営戦略や事業戦略の面で見ても、PMOの設置・導入は大きな期待があります。プロジェクトに割くリソースを効率的に配分することで組織全体の効率性や生産性の向上、さらにリスク管理の強化といったメリットが期待できます。ビジネスを取り巻く市場環境や法制度は日々変化しており、プロジェクトマネジメントを巡るガイドライン、運用ルールもタイムリーな改善が求められます。陳腐化を避けるためにも、PMOがサポートする組織改善や組織改革には大きな意義があるでしょう。

また、マネージャー人材の登用や抜擢はどの業界でも課題ですが、PMOを設置することでプロジェクトマネジメントに関する人材の経験値を上げられるため、育成面でもメリットがあります。

企業によっては、事務局や総務的なポジションとしてPMOを捉えることもありますが、PMOはコストセンターではなく、プロジェクトの生産性を高めて価値を創出するプロフィットセンターです。PMの迅速な意思決定や、スピード感を持った経営判断や企業戦略を支えていきます。

導入や浸透に向けた課題とは、そして解決の道筋は

ここまでメリットや設置の意義を考えてきましたが、PMO導入には注意点もあります。

※2:出典「企業・団体等のPMO導入に関する実態調査」(株式会社NTTデータ経営研究所・2024)
https://www.nttdata-strategy.com/knowledge/ncom-survey/240326/


NTTデータ経営研究所の調査によると、PMOの認知率は8割を超えるものの、導入率は3割強にとどまっており、現場での普及、浸透が進んでいないという現状が見られます。たしかに、「導入には二の足を踏む」という企業は少なくありません。

ここであらためて、PMOの導入にまつわる課題を考えてみましょう。

まず挙げられるのは「導入のコストとリソース」と「組織カルチャーの改革を要する」という課題です。新たにPMOを設置する組織では、一定の導入コストとランニングコストがかかります。PMを支える職務として、そしてマネジメント層と現場をつなぐポジションとしてPMOを導入することは、組織のカルチャーに一石を投じることにもなります。マネジメントラインが複線化するケースもあるため、時には「運用の複雑さ」を解決すべき局面も出てくるでしょう。

また、PMOを担える人材が少ないという現実もあります。これが「スキルとトレーニングの必要性」という課題です。人材市場ではPMOスキルを掲げる人材はまだ少なく、外部からの登用は簡単ではありません。一方、必要スキルを持った人材を社内で抜擢し、育てていくのも時間とコストを要します。ビジョンを持って育成や抜擢を進めなければ、人材のミスマッチが起こる可能性があります。

これらの課題をクリアするためには、組織文化をあらためて振り返り、プロジェクトに関する価値観を共有していく必要があります。PMOの活動を属人化させず、体系立てて提供する体制や仕組みを構築しなければなりません。コストとリソースの確保、運用の複雑さについては、自社に必要なPMOの機能を切り分け、個別にアウトソースするという手段もあります。プロジェクト管理ツールを知り、運用するというアプローチも有効でしょう。

プロジェクトの共通化や標準化を進めるためには、標準プロセスのドキュメント化やトレーニングの実施といったアクションが有効ですが、価値観の共有も欠かせません。一貫したマネジメントはプロジェクトの効率を向上させ、品質の均一化に直結します。

このように、共通化や標準化を重んじる価値観を醸成することが、PMOの導入に向けた有力な一歩です。人材の確保という課題については、自社にフィットするPMO像を明確にし、求められるリソースとスキルセットを整理することが大切です。これらの施策が人材のミスマッチを防ぎ、人材の抜擢に効果を発揮するでしょう。

PMOへの理解を深め、リアルなプロジェクトマネジメントへの一歩を

ここまでPMOの役割や重要性、登用や育成を解説してきました。経理、財務や総務、人事といった部門はイメージをつかみやすいですが、PMOはまだ新しい概念のため、さまざまな解釈があります。PMOとPMの違いを考えることは、プロジェクトマネジメント個々の業務をあらためて定義し、その意味やねらいを考えることに他なりません。

PMOのミッションと役割を整理し、導入の意義を深堀りしていく。このプロセスを経ることで、プロジェクトマネジメントの解像度が上がり、組織に求められるプロジェクトのあり方、マネジメントのアプローチが見えてくるでしょう。結果としてプロジェクト成功率も向上し、マネジメント層と現場のコミュニケーションも強まっていくはずです。

「人的資本経営」がトレンドになる中、プロジェクトマネジメントにおいても、人材の価値を高めて企業価値の向上につなげていかなければなりません。PMO導入のメリットと価値をあらためて確認し、自社で人材を育成することで、プロジェクトマネジメントの改善を検討してみましょう。