執筆者紹介
株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。
生活者と企業が当たり前にデジタルでつながる現代。企業の中にマーケティング実行体制を保有する合理性、あるいは必然性が高まっています。【新潮デジタル広告】の特別対談企画として、広告運用自動化ツールを開発する株式会社Shirofuneの創業メンバーである竹下 智視氏をゲストに招き、「デジタル広告の未来」について株式会社メンバーズ フォーアドカンパニーの田中が話を聞きました。
株式会社Shirofune
取締役 竹下 智視 氏
京都大学時代の卒論でリスティング広告を研究。サイバーエージェントに新卒で2007年に入社し、約10年間、一貫してリスティング広告運用の業務に従事。 広告運用における社内育成の仕組みづくりや、初期構築専門の部署の設立、運用ルール・オペレーションにおける社内ルールの設計、および組織づくりなどをおこなう。 株式会社Shirofuneでは、主にアカウントの構築・改善施策部分の独自アルゴリズムの研究・開発、およびカスタマーサクセス領域を担当。
株式会社メンバーズ フォーアドカンパニー
カンパニー社長 田中 秀和
ベンチャー企業にてIT事業の新規立ち上げ、事業拡大に貢献。2008年にWeb事業にて独立し、2012年に事業売却。その後、事業会社にて事業・経営に対する戦略立案に従事。Webの知見をもとに業界課題を改善した実績が認められ、セミナーへの登壇や業界紙への寄稿をおこなう。メンバーズに入社後は、金融系企業のデジタル支援PJTや、銀行のDX内製化に向けた高速アジャイルチームの立ち上げ・運用などのPJTを兼任し、2024年にフォーアドカンパニー社長に就任。
田中
竹下氏
田中
竹下氏
田中
竹下氏
田中
竹下氏
はい。主な変化の要因としては、以下の2点が挙げられると考えています。
1つは、Cookieの制限など個人情報保護を強化すること、これが社会全体で意思決定されてきたことで起こる変化。昨日GoogleのChromeのサードパーティークッキーの廃止が撤回※1になりましたけど、それによってこの流れが止まることはないと思うので、そこは引き続き進んでいくだろうと考えています。
この規制の動きは、従来の細かくデータを取得して、ターゲティングして、コミュニケーションをとって、パフォーマンスを上げるというモデルの基盤となる技術に規制がかかるということとイコールなので、大きな転換点の一つだと思います。
2つ目は、AIと呼ばれる自動化技術が進んでいることだと思います。この二つの要因が組み合わさることで、業界の方向性が大きく変わってきていると考えています。
※1:出典「『Googleがサードパーティークッキー廃止をやめるって』、Web業界に走った衝撃」(日経XTECH・2024)
米Google(グーグル)が米国時間の7月22日、同社のWebブラウザー「Chrome」での「サードパーティークッキー」の廃止方針を撤回すると発表。
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00138/072801573/田中
竹下氏
そしてもうひとつ注目すべき流れがあると思っています。それはデジタル化の領域の拡張です。いまではすべての経済や社会活動がデジタル化し始めているということです。
田中
竹下氏
そうです。メタバースやAR技術なども含めて、デジタル上での接点機会が爆発的に広がりつつあります。この機会拡大と現状のデジタル広告の歩留まり感が重なって、危機感や課題感が生まれていると感じています。
本当はもっと新しいことにチャレンジしたり、もっとやれることがあるのに、引き続き従来のモデルで自分たちは業務をやり続けてしまっているみたいな。
田中
竹下氏
はい。広告代理店だけでなく、広告主側も同様の課題を感じているように思います。だからこそ、今が変化のタイミングなのではないでしょうか。
田中
竹下氏
たしかに内製化のトレンドは変化してきています。以前は主にコストカットなどの短期的な視点で話が上がっていましたが、ここ1、2年は中長期的な視点で自社のデジタルマーケティング力を強化したいという文脈に変わってきています。
企業がデジタル広告への理解を深め、ナレッジを蓄積し、スピーディーに対応できるようになりたいという意図が感じられます。
田中
竹下氏
当時はニーズとして明確にはまだなかったかもしれません。我々は、デジタル広告運用において「機械が得意なこと」と「人が得意なこと」を分け、機械が得意な領域に人的リソースをかけすぎている状況を解消することを目指してプロダクトを開発しました。
田中
竹下氏
内製化を求めるユーザーの声や問い合わせ自体は増えてきてるので、そこにしっかりアジャストしてサービスを提供していきたいですね。
田中
竹下氏
テクノロジーの進化によって、デジタルが大事っていうのはもう当たり前すぎる形になっていますよね。デジタルでのコミュニケーションが事業の中枢になっている現状で、それを外部にアウトソースしたままで良いのかという危機感が生まれているのだと思います。
田中
竹下氏
仰る通り。外部パートナーに対する課題や不満、これは昔からずっとあったと思うんですよ。今の内製化の動きは、それがメインの理由で動くということではなくて、より大きな視点でデジタルを強化する必要性、そこから始まっていると感じています。
田中
従来まではデジタル広告を使ってユーザーを連れてきたり、機会を創出するというのがデジタル広告の役割だったけれど、現在はユーザーとのコミュニケーションすらデジタルで完結する時代になってきてるので、そこのコミュニケーションはやはり自社のユーザーを一番知ってる社員が対応できたほうが良いよねってことなんですね。
広告代理店って、いわゆる広告のプロではあるものの、事業会社側のプロダクト、サービスのプロではないんですよね。良い担当にあたれば別ですが、良い方は現場から居なくなるのが早かったりもするので(笑)。
今後はそこを内製化だったり、一部でも事業会社側で、自分たちの責任のもとで回していくみたいな動きが多くなるのかなと思っています。
竹下氏
広告運用業務への理解が進めば、仮に外部パートナーと一緒にやってたとしても、もっと生産的なアプローチであったり、チーム体制とかの改善に着手できるようになると思います。
絶対内製化だ、絶対アウトソースがいいとかゼロイチではなく、まずは自社で実践して理解を深め、その上で最適な組み合わせを設計することが重要だと考えています。
田中
そのための第一歩として、まずは一部媒体や商材カットでスモールに内製化を始めてみるというのは、比較的チャレンジしやすいのではと思いますね。
このデジタル広告内製化という選択肢が選ばれやすくなっていたり、あるいはそういった選択を既にされてる企業さんも増えてきていると思いますが、一方でデジタル広告の内製化は、企業としての大きな意思決定でもあるので、体制変革にあたっては一定のハードルもありますよね?
竹下氏
そうですね。一般的にそれをやれる人材が不足しているとか、そういうスキルや経験を持っている人材がいないとか、そのあたりがテーマとして上がるんだろうなというのは思いますよね。
現実的にやったことない運用をいきなり業務としておこない、かつそこに広告費というお金がついているので、成果が悪化するとか、もしくは失敗してしまうとか、そういうリスクを気にせざるを得ない側面もありますよね。あくまでプロが運用していたデジタル広告を社内で取り扱うとなると、やはり責任というかプレッシャーになりますよね。
田中
竹下氏
スタートアップやデジタル系の企業だと、雇用形態も多様化しているので、例えば、副業として手伝ってもらったり、業務委託でチームに加わってもらったりといった選択肢を利用し、自社のデジタル面での弱点を補いやすくなっています。
しかし、特定の専門領域の人材を採用するのが難しい場合や、フリーランスに依頼するのはセキュリティ上の問題がある場合など、大企業では制約が多く、人材確保のハードルが非常に高くなっていると感じます。
【調査結果サマリー】
運用体制は「自社運用」「代理店運用」はほぼ同程度の結果に。「自社運用と代理店運用の併用」で、部分的に自社運用をしている企業も多い。
途中で運用体制を切り替えているケースは少なく、自社の事業フェーズにマッチした運用体制を選択していくことへのハードルは非常に高い。
運用体制を切り替えない理由は「運用経験者の採用・確保ができないこと」が最も多く、代理店運用の「プロの広告運用経験者」を供給してくれるメリットとリンクする結果に。
代理店から自社運用に切り替えた企業では、「運用スピードの改善」や「自社へのノウハウ蓄積」やという課題は解決ができたと回答。
事業フェーズにマッチした運用体制の柔軟な構築は、「運用経験者の採用・確保」が鍵に。※2:出典「BtoB企業のデジタルマーケティングにおけるWeb広告運用体制に関する調査」(株式会社Shirofune・2023)
https://shirofune.com/inhousemarketinglab/20230315/
田中
これもまた御社のWeb広告運用人材の年収と採用難易度に関する実態の調査結果からですが、居住エリアと運用歴に応じたWeb広告運用担当者の年収の傾向と、企業にとって自社が求めるWeb広告運用人材の採用難易度のハードルの高さは顕著にデータに出ていますよね。
Web広告運用を内製化したい広告主や即戦力人材を確保したい広告代理店にとっては、十分な採用予算を確保できるかどうかが大きな鍵になると。
竹下氏
デジタル人材の需要と供給を考えると、需要が供給を上回っており、必要なスキルを持つ人は条件を選べる立場にあります。これにより、採用が一層困難になります。特に首都圏ではまだ人材が集まりやすいですが、地方の企業では利用可能な人材の数がさらに少なくなるため、採用が非常に厳しい状況になると考えられます。
田中
かつ、それがデジタルの企業ではなく事業会社側の求人から、そういったスキルを持った人材を採用するというところが、さらに採用難易度を高めるのかなと推察しています。
一方でスキルの面にフォーカスすると、プラットフォームの機械学習の進化による広告運用の自動化も進んでいるなと感じており、以前にくらべて楽になったというか、属人的な広告スキルは平準化に向かっているなと感じています。
竹下氏
AIの進化やデータ取扱いの制限など複合的な要素を考慮すると、プラットフォームの自動化はますます進むと思うので、その結果として平準化に向かっていると言えます。玄人運用者にとっては、自動化が進むことでコントロールできない部分が増え、運用が難しくなっていると感じると指摘されることもありますが、一般的にはより多くの人々が使いやすくなっていると私は思います。
田中
【調査結果サマリー】
広告運用人材の採用、即戦力のミドルクラス人材にニーズも企業側は苦戦傾向。ミドル人材のマーケ・マネジメント等 別領域へのキャリア志向も影響か。
※3:出典「Web広告運用人材の年収と採用難易度」(株式会社Shirofune・2023)
- Web広告運用人材の平均年収は「約623万円」各階級ごとでは、ジュニアクラスで「約520万円」、ミドルクラスで「約550万円」、シニアクラスで「約750万円」、エグゼクティブクラスで「約916万円」
- Web広告運用人材の約7割が「5年未満」のジュニア・ミドルクラスの広告運用経験であり、5年を超えるシニアクラス以上は希少価値が高くなる。また居住地別の分布では、首都圏・各地方エリアの都市部に集中していることがわかる。
- 企業の採用ニーズが最も高いのはミドルクラスで、即戦力を求める傾向が強い。一方で採用に苦戦していると回答したのもミドルクラスが最も多く、採用難易度が高いことが想定される。
- ミドルクラスの転職時のキャリア志向として、「マネジメント領域」や「マーケティング領域全般」など、広告運用領域以外を志望する割合が非常に高い。
https://shirofune.com/inhousemarketinglab/survey202309/
田中
竹下氏
ありがとうございます。広告の運用自動化ツールという形で、約10年ぐらいサービスを提供しているものになります。Google、Yahoo!、LINE、Metaなどの主要なプラットフォームに対応しています。Web広告運用の経験がない方でも、プロの品質で横断的な配信管理が可能なソリューションを提供しています。
13,000件以上の利用実績があり、デジタル広告運用を内製化する際に経験やスキルがない企業や、新しく広告運用を始める方々、または広告代理店のように経験はあるがすべてをマンパワーで対応するのが難しい場合に、生産性の向上を目的として利用されています。
田中
竹下氏
広告運用者は、広告配信の設定を確認し、結果を見て、プラットフォームの特性に基づいて改善策を考えます。これは、経験を活かしながらおこなう重要な業務です。
我々は、この「判断」と「実行」をシステム化し、どんなユーザーでも同様の状況で同じ判断ができるように再現性を持たせています。この部分をアルゴリズムと表現しており、ここにもっとも力を入れて取り組んでいます。
田中
理解が深まりました。
我々もデジタル広告の内製化を推進する中で、従来代理店側で持っていたブラックボックスになっている広告の知識やスキルを、事業会社側にスキルトランスファーさせていただいてるのですが、御社も知識やリソースを問わず、あらゆる人が成果を出せる仕組みを見据えてプロダクトを立ち上げられたそうですね。
デジタル広告の開放というか、デジタルマーケティングの民主化のようなことを推進されていると感じていて、勝手に親和性を感じています。
竹下氏
いや、僕もそう思ってますよ(笑)。
前編ではデジタル広告業界の変化と広告内製化の進展について話をお伺いしました。
≪後編≫では、デジタル広告の内製化とこれから企業として考えるべきマーケティング戦略、デジタル広告の未来についてお話をお伺いします。
株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。