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ビジネス成長のカギを握るPdMとは?PM・PMMとの違いについても解説

昨今、プロダクト開発の現場において、「PdM(Product Manager:プロダクトマネージャー)」がクローズアップされています。PdMとは、プロダクト開発の全プロセスに関わって意思決定をおこない、ビジネスを成長させる重要なポジションで、多角的な視点と豊富な知見を持ったプロダクトマネジメントのプロフェッショナルです。
 
本記事では、「PdM」の役割や、混同されがちなPM・PMMとの違い、PdMがいてもプロダクト開発が上手くいかない理由などを解説します。また、メンバーズグループ会社でUX人材育成に取り組んでいる、メンバーズユーエックスワン社長・大野に、PdMに求められるスキルや、PdMの育て方についてもインタビューしています。

目次

プロダクト開発の現場に欠かせないPdMとは

PdMとは、プロダクトの企画や開発、販売といった「プロダクトマネジメント」を推進するポジションです。市場分析やユーザーニーズの把握、販売戦略の立案、製品・サービスの改善など、プロダクトマネジメントに関わるすべてのプロセスを統括し、プロダクトの価値を最大化させ、ビジネスを成長させる重要な役割を担っています。

プロダクトマネジメントにおいては、ビジョンを明確にし、各ステークホルダーが同じ方向を向いて、付加価値の高い製品やサービスを生み出すことが最大の目的です。その舵取りとしてPdMが必要とされています。

少し古いデータにはなりますが、2019年にLinkedInが発表した「Most Promising Jobs of 2019」※1では、PdMがもっとも有望な仕事の一つに挙げられています。また、2020年にGLASSDOORが発表した「The Best Jobs in America 2020」※2では、アメリカでもっとも優れた仕事の第4位にPdMがランクインしています。以降の調査レポートでも度々職名が挙がるなど、PdMの需要は年々増加傾向にあることがわかります。
 
※1:出典「Most Promising Jobs of 2019」(LinkedIn・2019)
https://www.linkedin.com/blog/member/career/linkedins-most-promising-jobs-of-2019
※2:出典「The Best Jobs in America 2020」(GLASSDOOR・2020)
https://www.glassdoor.com/blog/the-best-jobs-in-america-2020/

PMとPMMとの違いは?

プロダクトマネジメントトライアングル

PdMと混同されやすいポジションに、「PM(Project Manager:プロジェクトマネージャー)」と「PMM(Product Marketing Manager:プロダクトマーケティングマネージャー)」があります。

これらのポジションとPdMでは「担当領域」が異なります。DoubleLoopのCEO・Daniel Schmidt氏が提唱した「プロダクトマネジメントトライアングル」※3というフレームワーク(プロダクトマネジメントに関わる3つの要素「デベロッパー」「ビジネス」「ユーザー」の関係性を示した概念図)を使い、それぞれのポジションの違いを整理してみましょう。
 
PMの担当領域
PMとは、プロジェクトの進行管理や品質チェック、コスト調整などを担う「プロジェクトマネジメント」の責任者です。プロジェクトを滞りなく進めるために、プロジェクトメンバーの進捗把握やお客さまとの外部折衝、トラブル発生時の対応などをおこないます。

PMはプロダクトを生み出すためのプロジェクト管理をおこなうポジションであり、ユーザーを対象とした販売戦略には関与しないため、エンジニアやデザイナーといったデベロッパーとビジネスとの連携が担当領域となります。
 
PMMの担当領域
一方PMMは、プロダクトのプロモーション施策やマネタイズの戦略設計をはじめとする「プロダクトマーケティングマネジメント」を担うポジションです。さまざまなマーケティング手法を駆使してプロダクトを販売し、営業活動を効率化させる責務があります。

PMMは、PdMの担当領域のうちマーケティング分野に特化した職種で、PdMの負担軽減や効果的なセールスをおこなうために誕生したと言われています。そのため、デベロッパーとのコミュニケーションを除いた、ユーザーとビジネスが担当領域となります。
 
PdMの担当領域
そしてPdMは、プロダクトマネジメントに関わるすべてのプロセスを統括するため、担当領域はトライアングルの全範囲です。さまざまなステークホルダーとリレーションを強化するためのマネジメントスキルはもちろん、プロダクト開発やマーケティングに関する専門的な知識も求められます。

これらのフレームワークからわかるように、PMとPMMはそれぞれの担当領域に特化したポジションであり、PdMはPMとPMMを包括した分野横断型のポジションです。
 
※3:出典「The Product Management Triangle」(Daniel Schmidt|Medium・2014)
https://medium.com/doubleloop/introducing-the-product-management-triangle-4a5b9b02532c

PdMがいてもプロダクト開発が円滑に進まないのはなぜ?

プロダクト開発のプロフェッショナルであるPdM。しかし、PdMがいるからといって、プロダクト開発が必ずしも成功するとは限りません。なぜなら、PdMの「スキル面」とプロダクトの「開発体制面」に課題があるからです。

1.PdMに求められるスキル

PdMは、ポジションの特性上、多岐にわたるスキルが必要とされます。Product Schoolの「The Future of Product 2024」※4では、プロダクトマネジメントにおいて以下のようなコアスキルが必要と紹介されています。
 
プロダクトマネジメントに必要なコアスキル
コアスキル プロセス
Product Vision and Strategy 戦略設計や販売戦略をおこなうスキル
(ロードマップの作成・市場動向の把握など)
Customer Insight and Discovery 市場分析や顧客ニーズの把握するスキル
(データ流暢性/製品メトリクス・定性的および定量的分析・顧客発見・デザイン思考)
Execution and Delivery プロダクトの計画やリリースまでのプロセスをおこなうスキル
(プロダクト要求仕様書・市場戦略など)
Functional and Technical Knowledge デベロッパー知識や予算・ポートフォリオ管理の知識
 
 
しかしながら、一人のPdMがこれらすべてを高い水準で持ち合わせていることは稀です。Functional and Technical Knowledgeが不足していると開発チームとのコミュニケーションが円滑にいきませんし、Customer Insight and DiscoveryやProduct Vision and Strategyが不十分だと、プロダクト開発の方向性が曖昧になります。また、Execution and Deliveryの進行管理が満足におこなわれないと、リソースの分配や改善業務に問題が生じ、結果的にプロダクト開発全体が遅延する可能性があります。
 

2.開発体制の整備

PdMの役割や数が定義されていない場合、PMやPMMがPdMの業務を担当したり、複数のPdMが独自のアプローチで各プロジェクトを進めたりするという構図が生まれます。フォーカスが合わない状態で開発を進めると、戦略の一貫性が欠如し、情報共有や意思決定に遅れが生じるため、開発が難航します。

「Webフロントエンド版DX Criteria」※5では、DXとUXを加速させる100項目(5つの大テーマ×5つの小テーマ×4つの観点)のクライテリア(評価や判断を行うための基準や指標)が設けられています。「大テーマ」はエンジニアリングや開発チームにおいて実現すべきこと、「小テーマ」はそれらを達成するための要素についてのカテゴライズ、「観点」は小テーマの達成状況を評価する指標です。
 
これらはプロダクト開発において重視すべきポイントを網羅的に定義したものですが、対応すべき項目が多く、専門的な知識も求められるため、すべてを達成しようとするとPdMの業務量が増大します。PdMの業務負荷が過剰になると、全体の進行管理やステークホルダーとの調整に十分な時間を割けず、プロダクト開発が停滞するリスクが高くなります。

複雑なプロダクト開発や、開発が長期にわたる場合は、適切な役割分担と体制の整備が重要です。
 
※4:出典「FIFTH ANNUAL REPORT The Future of Product 2024」(Product School・2024)
https://ps-report.productschool.com/
※5:出典「Webフロントエンド版DX Criteria(v202402)/プロダクトのユーザー体験と変化に適応するチームのためのガイドライン」(DX Criteria・2024)
https://dxcriteria.cto-a.org/frontend

UX専門の人材支援会社・社長が語る「PdMのあり方」

プロダクト開発を成功に導くために、PdMには何が求められるのでしょうか。UX専門のデジタルクリエイター人材育成・常駐支援サービスを提供するメンバーズユーエックスワン社長・大野に、PdMのあり方についてインタビューしました。
 
大野歩 

プロダクト開発の現場において、PdMが果たすべき役割

大野:プロダクトマネジメントトライアングルのそれぞれの役割や価値観だけで動いているとコミュニケーションが円滑に進まず何も進まない、失敗し責任を押しつけるような結果になります。デベロッパーは自分たちの作りたいものを作るし、ビジネスは収益性向上の施策を考える。それはもちろん良いことなのですが、プロダクト開発という大きな枠組みで見たときに、それぞれに関連性があるかというところがポイントになる。これが噛み合っていないと、赤字が続くような状態に陥り、開発が円滑に進まなくなります。

PdMはそれぞれのステークホルダーを「プロダクト」という目線で統括する必要があります。それぞれの役割や目標、価値観を理解しながらも全体を「プロダクトの継続的な価値向上」に向かって推進、物事を判断することが重要です。

プロダクト開発の足並みを揃え、問題の発生を最小限に抑えるためには、「共通言語」を作って方針を決めていくことになります。PdMは「開発もできる」「ビジネスも理解している」「顧客やリサーチ、マーケティングにも精通している」といったスーパーマンではないので、それぞれの担当/責任者と協働してプロダクト開発を推し進めます。

PdMが3要素の業務を理解することはもちろん必要ですが、実務は分業です。PMやPMMを設けるなどして、より専門性の高い人材を適材適所に配置した方がプロダクト開発は円滑に進み、業務負荷の軽減にもつながります。PdMはスーパーマンである必要はなく、プロダクトの継続的な価値向上のための方針策定と、それぞれの業務を理解した上でスムーズに連携することが、現場で求められる役割です。

プロダクトを開発するために、PdMに必要なスキルセット

大野:個人的には、「ビジネススキル」「UXスキル」「エンジニアリングスキル」「チーム推進スキル」「ヒューマンスキル」の5つのスキルが重要だと考えています。

ビジネススキルでは、プロダクトの品質評価やユーザーからのフィードバックに基づいた改善、収益性やユーザー価値の最大化といった、PdMに求められる基本的なスキルのほか、業界や分野に特化したドメイン知識の習得が必要不可欠です。

将来的なプロダクトの発展を考えたときに、どれくらいコストをかけて売上を作るのか。プロダクト開発においては戦略設計が非常に重要ですが、ドメイン知識が乏しいと、表層的なプランになりやすい。ドメイン知識はプロダクト開発のなかでもっとも重要なので、綿密な戦略設計を立てるためにも詳しくなる必要があります。

UXスキルは、市場分析力やユーザー視点の知識のことです。やはり、どれだけ優れたプロダクトができても、マーケットフィットしなければ収益性は上がりません。「面白そうだから作ってみよう!」ではなく、「これを作ったらユーザーは喜ぶのか?」という客観的な視点で市場の動向を把握し、ニーズとウォンツを正確に分析できるスキルを身につけることが求められます。

エンジニアリングスキルは、プロダクト開発の基礎となるスキルです。3要素を統括し、適切なコミュニケーションをおこなうには、モノを作ることができるスキルや知識が必要不可欠です。開発における制約を理解しておかないと、戦略設計の立案やコスト調整などができず、感覚頼りの判断になってしまいます。経験則に基づいた意思決定をするためにも、PdMは何かしらの開発経験をしておくといいですね。

チーム推進スキルは、その名の通り、チームをまとめて動かしていく進行管理力を指します。進行管理という点ではPM寄りのスキルといえるかもしれません。プロダクト開発は、プロダクトが世に出てからがスタートです。PDCAサイクルを素早く正確に回し、より良いプロダクトを生み出してマーケットフィットさせていく。継続的な価値の向上のためには、チームが同じ目標を持って開発・改善し続けられるようなPdMのハンドリングが重要です。

最後のヒューマンスキルですが、PdMにもっとも求められるスキルです。プロダクト開発を円滑に進めるために、ステークホルダーを巻き込んで「一緒に頑張っていきましょう」と声掛けをおこなう。プロダクト開発は多くの人と関わるので、こうしたコミュニケーション能力が何よりも大切になります。
 
とはいえすべての領域で専門性を高めることは現実的ではありません。自身の強みはPdMとして発揮し、そうではない部分は専門性の高い人と、「プロダクトの継続的な価値向上」という同じ目的をもって、協働していくことが重要です。

PdMを育てるために、有効なアプローチとは?

大野:まず、知識を得るための座学です。基本的なビジネススキルやマーケティングの知識はビジネススクールで学ぶことができますし、UXスキルは手法や型があるので、講座やワークショップなどを通して学べます。

チーム推進スキルについては、すでにPdMとして活躍しているメンバーがナレッジ共有会を開催し、ユースケースを共有する機会があれば理想的です。ヒューマンスキルを高めることは難しいですが、各ステークホルダーとのやり取りのための仕様書、要件定義書、プロダクト要求仕様書のようなドキュメント、型を学ぶことは必要になります。

一方で、エンジニアリングスキルを身につけることは一筋縄ではいきません。座学で知識をつけても実務での開発経験がないと、開発における制約がわかりません。また、開発に関するナレッジはアップデートが早いため、継続的に学び続けなくてはなりません。前述した通り、自身で学ぶことも必要ですが、専門性を高め続ける難易度は高いので、自身の経験を元にリスペクトしつつ、共同するのが理想です。

これらのプロセスで知識やスキルを身につけたら、模擬案件をおこないます。現場で活躍するPdMの補佐としてOJTで学ぶ形もありますが、まずはロールプレイング的に体験できると安心です。

模擬案件を通じて自分に足りないスキルを明確にし、継続して磨いていく。そうすることで、実務とのギャップを少しでも減らせます。実際に、ユーエックスワンカンパニーでも模擬案件の研修を取り入れていますが、やはり開発担当との会話で難航しているという声をよく聞きます。

いずれにしても、PdMはいろいろな立場の人と関わる職種のため、エンジニアやUXリサーチャー、デザイナー、マーケティング、サービスの企画推進などを経験し、プロダクトに関連する市場や顧客ニーズの把握ができる人がステップアップしていく職種です。 

PdMは重要な職種と言われていますが、PdMの将来性について教えてください

大野:将来性は大いにあります。金融機関を例に挙げると、本部でサービス統括を務める方は、店舗で店長を経験してから本部に戻り、責任者になるパターンが多いと聞きます。彼らは、ドメイン知識が豊富で、深くサービスを理解しています。しかしながら、店舗業務の経験のみのため、サービスをデジタル化して、成長させていくための知見は乏しく、プロダクトマネジメントに関する知識を持っていません。

このような責任者(PM)をフォローアップし、不足したスキルを補うために、PdMのようなプロダクト開発のプロフェッショナルが必要になります。他部署にPdMがいればナレッジやノウハウが蓄積されているので、速やかに内製化できますが、もしそういった人材がいなければ、PdMが常駐して伴走支援する外部サービスを利用するのも一つの選択肢です。

外資系企業や、SaaS企業には、ビジネス、デベロッパー、市場/UXリサーチの人材を社内に抱えているケースが多いです。それぞれの役割は異なっても、同じ意識でプロダクトの継続的な価値向上に寄与できれば、PdMは必要ないでしょう。

一方、多くの日本企業は、デベロッパー、市場/UXリサーチは外注するという文化が根強く、利害関係もあるため、共通の意識を持ちづらいです。その場合、内製化するまでの間はPdMの役割が必要になってきます。

プロダクト開発を成功に導くPdM

PdMの概要やその役割、求められるスキルセットなどを説明しました。PdMは、プロダクト開発現場において欠かせない存在であり、マーケットフィットしたプロダクトを生み出すためには、PdMが各ステークホルダーのハブとなり、足並みを揃えて開発を進めていくことが重要です。

PdMの重要性を再認識し、その価値を最大限に引き出す取り組みを進めることで、内製化の推進やプロダクトの品質向上に寄与し、企業全体の競争力向上やビジネスの成長につながるはずです。PdMの育成と開発体制の整備をおこない、円滑で収益性の高いプロダクト開発を目指しましょう。
 

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

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