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【特別対談】株式会社リチカ 代表取締役 松尾 幸治氏に聞くデジタル広告の未来≪前編≫

生活者と企業が当たり前にデジタルでつながる現代。企業のなかにマーケティング実行体制を保有する合理性、あるいは必然性が高まっています。「クリエイティビティで、世界を豊かに。」をミッションに掲げ、広告クリエイティブの制作&運用ができるRICHKA CLOUDを始め、AI軸でさまざまなプロダクト開発・提供をする株式会社リチカ。大手VCなどから20億円以上の資金調達も実施し、躍進を続けています。【新潮デジタル広告】の特別対談企画として、同社代表取締役社長 松尾 幸治氏に「デジタル広告の未来」について話を聞きました。

 

松尾 幸治株式会社リチカ

代表取締役 松尾 幸治 氏

1989年生まれ。佐賀県出身。横浜市立大学卒業後、「日本の社長tv」を運営する株式会社ディーノシステムに参画。取締役運営本部長としてプロダクト、クリエイティブ、マーケティングなど広く従事し、2年で5,000社の新規開拓を牽引。2014年に株式会社リチカを設立。累計10億円以上調達しながら、「クリエイティビティで、世界を豊かに。」する動画広告の自動生成AIを開発。AIの力で人はもっとクリエイティブな仕事ができる未来を。22年度すごいベンチャー100掲載。

 

田中 秀和株式会社メンバーズ フォーアドカンパニー

カンパニー社長 田中 秀和

ベンチャー企業にてIT事業の新規立ち上げ、事業拡大に貢献。2008年にWeb事業にて独立し、2012年に事業売却。その後、事業会社にて事業・経営に対する戦略立案に従事。Webの知見をもとに業界課題を改善した実績が認められ、セミナーへの登壇や業界紙への寄稿をおこなう。メンバーズに入社後は、金融系企業のデジタル支援PJTや、銀行のDX内製化に向けた高速アジャイルチームの立ち上げ・運用などのPJTを兼任し、2024年にフォーアドカンパニー社長に就任。

 

目次

広告クリエイティブ時代の到来

田中

デジタル広告、そのなかでも特に動画クリエイティブに強みを持つ御社ですが、現在のデジタル広告のトレンドをどのように見ていますか?

松尾氏

リチカクラウドを構想したときから、量産しないといろいろ追いつかなくなってきており、かつAI活用が中心になってくるだろうという点から、クリエイティブの時代は確実に来ると考えていました。

 

動画広告やディスプレイの広告面がSNSで広がったことにより、すべてが多様化してきました。昔のように、とりあえず動かしておけばコンバージョンが取れるとか、バナーを作っておけばよかったみたいな時代から、超高度化したという印象を受けます。


一方で、元々重要視されていたオペレーション業務では、相対的に差別化がしづらくなってきています。本質的になり、難しい時代になってきましたよね。

田中

「量産」の概念は分かりやすいですね。フルオーダーメイドで品質の高いクリエイティブが正とされてきた時代から、だんだん代理店と担当者や企業のエゴでしかないということがめくれてきたというか。


これはコミュニケーションのデジタルシフトもそうですが、何を成果とするかの捉え方の違いだと思っています。本来広告としての成果を見るべきところが、クリエイティブを成果と勘違いしてしまい、手段と目的が逆転している人が多い。

 

これは従来のマス広告の延長線上でしかデジタルというものを捉えきれていないのが原因だと思っています。社会もテクノロジーも加速度的に進化するなかで、もはや本質的に従来とは違うものだと定義したほうが良く、そこに私たち自身も適応していかないと難しい気がしています。

松尾氏

完全にめくれていますね(笑)。多くの企業も気付き始めているのではないかと思います。

田中

私たちの事業を始めたきっかけでもあるのですが、YoYでデジタル広告予算が上がり続けているものの、デジタル広告の運用体制が大きく変わらないという不満やご相談を、広告主側から多くいただくようになりました。

松尾氏

業界が変わってきていると思うのが、今まで測れなかったものが測れるようになり、ブランディングや認知など、言い方はあまり良くないかもですが、ごまかしてきたことが行き詰まり始めているという動きがあると思います。制作費も高いですし。


私たちも後発で代理店型のビジネスを始めてあらためて難しいと思うのが、お客さまの広告予算に対しての手数料をいただく商売なので、一定の予算規模がないと運用体制を充実できないという壁がありますよね。始める前は、手数料が20%は高過ぎるだろうと思っていましたが、やってみてその課題に直面することもありました。

 

双方の業務をやってきたからこそ感じますが、世の中的にインハウスのシフトの流れがきているというのは、代理店側も岐路に立たされているのではないかと思っています。

田中

一般的な手数料20%の場合、例えば100万円の広告予算のなかで、手数料20万円で体制をつくるのは結構厳しいところがありますよね。逆に1億円の予算で手数料が2,000万円だと、運用する媒体にもよりますが、少し貰いすぎていることが往々にして散見されます。


おそらく、従来の広告の延長線上でデジタル広告も金額設定され続けてきたことの転換期ですよね。デジタル広告の運用代理店は、マスのゴールデン帯の買い付けや、タレントなどのキャスティング、監督やコピーライターのアサイン、撮影発注から流通までをやるわけではありません。


膨れ上がった手数料で媒体運用やクリエイティブをこなしているのが現状で、運用代理店がクリエイティブが得意かというと必ずしもそうではありません。そんなときにAIを活用してクリエイティブも自分たちでつくれるようになると。

松尾氏

運用業務だけやっているところは、差別化が難しくかなり苦しくなってきているように感じます。なので、よりマーケティングの上流を支援していく必要があるのではないかと考えています。

松尾氏が話している様子

大きなパラダイムシフトが起こるのはデジタルマーケティング業界

松尾氏

ネット広告が伸びているなかで、代理店市場のラージとミドルとスモールがあったとして、今は個人の独立が増えていると同時に、スモールの市場が伸びています。ラージは引き続きデータであったり開発投資だったり、バイイングの利があるので伸びています。そんななかでミッドマーケットが昨年はじめて昨対100%を割っているという話もあります。

田中

代理店としてはどこかに尖っていないと難しいのと、優秀な副業人材やフリーランスもたくさん出てきている現状です。業界の多重下請け構造にも課題があると思っていて、そういったところも適正化していくべきですね。

松尾氏

最近DXという流れがありますよね。ずっとこの業界にいるとよく聞く言葉だと思いますが、広告業界は他の業界に比べるとデジタル化が早すぎたと思っています。早かったからこそ、一周回って身動きが取れなくなり、遅れていると思っています。

 

今いろいろな産業のDXが進み始めていて、その筆頭はSaaSだと思うのですが、このあと大きなパラダイムシフトが起こるのがこの「デジタルマーケティング」の業界だとすると、産業的にも面白いと思っています。

田中

Shirofuneの竹下さんも同じようなことをおっしゃっていました。デジタル広告業界は20年ほどの歴史しかありません。常に新しいものを作ってきたため、その成功体験から逆に変わるのが億劫になっており、停滞感があると。ちなみに、松尾さんの考えるパラダイムシフトは具体的にどのようなことですか?

松尾氏

「アドテック」とは何か、よくわからないですよね。本当にすごい技術である一方で、どちらかというとインターネットハックのような思想が強いと思っています。この基盤が残っているからこそ、いろいろな産業で身動きが取れなくなっている。日本はオンプレが普及しすぎた結果、クラウドが遅れたという状況を繰り返していると思っています。

松尾氏と田中が話している様子

社会変化とショート動画とワイドショー

田中

クリエイティブはどう変化してきたのでしょうか?

松尾氏

クリエイティブは10年経験していますが、3回ほど変化のポイントがあったと思います。


1つめは、やはり動画広告の面が増えたことが一番大きいと思っていて、YouTubeやFacebook、Instagramなど、さまざまな面でクリエイティブが動くようになってきましたよね。それにより、在庫の種類が変わってきているという第一の変化があります。


2つめに、ストーリーズのような、SNSの縦型画面占有のコンテンツが増え、UGCのコンテンツも同時に増加してきたというところです。クリエイティブも広告色の強いものから、一変してプラットフォームフレンドリー寄りになり、そのコンテンツにマッチしていて溶け込むようなものでないとCVが取れなくなってきたというのが第二の変化です。


そして最後に、今はもうショート動画の時代ですよね。IPTと言われるように、情報の摂取時間が短くなってきているので、ある意味多くを語っては駄目になったというか。

 

※インフォメーション・パー・タイムの略=時間当たりの情報

田中

ショート動画の台頭については、世代交代というには超高齢化社会。通信速度の高速化も関係あると思いますが、これは純粋に社会変化と捉えていいのでしょうか。

松尾氏

社会の変化だと思いますね。特にTikTokなどは、平均年齢が意外と高い。グノシーなどのニュースアプリが台頭してきた際も思いましたが、お茶の間でワイドショーを見ていた人たちが、持ってるデバイスを変えただけで、若い人だけの影響ではありません。

田中

超情報社会だからこそ、短時間の動画で情報を得られるというのは、年代問わず誰もが便利なものですよね。

松尾氏

とはいえ、アテンションの取り合いみたいな広告は、それはそれで疲れますね(笑)。

松尾氏が話している様子

成果創出のポイントはAIBAC

田中

そのようなクリエイティブの変化のなかで成果を出すためのポイントはなんでしょうか。

松尾氏

4~5年前にAIBAC(アイバック)というダイレクト広告のクリエイティブフレームワークを作っていたのですが、いまだにこれだと思います。クリエイティブのなかにどのような情報を埋め込むかがきちんと設計されていることが大切です。


AIBACはAttention(注意喚起)Interest(興味関心)Benefit(利益)Action(行動喚起)の頭文字から構成されるものですが、まさにショート動画の構成もそうなっています。Attentionを取れないものは、インフィードやリールのなかでそもそも手が止まらない。だからAttentionさせるコンテンツが入っている必要があります。

 

そこから興味関心を持たせるInterestの要素が入っていて、その生活者にとってのBenefitがきちんと含まれていること。そして、CTAのような次のActionがきちんと含まれていれば、相対的に成果が生まれやすい。昔から、テレビショッピングは完全にこの要素が入っていますよね。

 

今まで100万本以上のデータを分析したのですが、相対的にパフォーマンスが出ているものは、それらの情報が入っていることが多いです。

 

※ ①Attention(注意喚起)」「②Interest(興味関心)」「③Benefit(利益)」「④Action(行動喚起)」の4つの要素を抽出し、専門的なノウハウが無くても効果的な動画広告のクリエイティブを制作することができるフレームワーク

田中

今も昔もクリエイティブのセオリーは大きく変わらず、そこにプラットフォームごとの媒体特性や進化があり、最適化していくという感じですよね。非常に勉強になります。あらためて、リチカ式メソッドは秀逸ですよね。我々もリチカ式メソッド=4AD式メソッドだと思っています。

松尾氏

ありがとうございます(笑)。

AIBACーダイレクトレスポンス型動画広告フレームワークの説明

※1:出典「動画広告の制作ノウハウや知識がなくても、簡単に最適なクリエイティブ制作が可能な新しいフレームワーク『AIBAC(アイバック)』を公開」(PR TIMES・2019)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000028.000025039.html

脱・SaaSスタートアップ

田中

成果創出のためには、プラットフォームごとに最適なクリエイティブ制作をおこない、かつそのPDCAを高速で回すことが求められますが、情緒的なクリエイティブをオーダーメイドで制作するのはコストが高くなります。


加えて、早ければ3日で飽きられると言われている昨今のデジタル広告のスピード感にアジャストしようとすると、当然綻びが出ますよね。それらをテクノロジーの力で解決できる、御社のプロダクトについて詳しくお伺いしてもよろしいですか。

松尾氏

このタイミングでリチカクラウドという名前にリニューアルし、AiDistやEditorなどいくつかあるプロダクトを統合しました。一言でいうと、デジタルマーケティングの業務を誰でも簡単におこなえる、オールインワンのAIマーケティングシステムです。


今までは動画広告の自動生成を中心にやってきたのですが、この数年は開発に注力することで企画、制作から運用までをワンストップで可能にするプロダクト体制ができました。おそらく、国内でここまでできるプロダクトは、今のところ他にないと思っています。


強みとしてはワンストップでマーケティングができるということを打ち出してはいますが、シンプルに言うと広告代理店が開発したというのは大きいと思っています。私たちも広告代理店の自覚がありませんでしたが、やっていることを整理したら、もはや代理店ではないかと(笑)。

 

運用のほかにも、ブランディング支援の例でいうと、Tシャツのグラニフさんのリブランディング支援って、実はうちで担当させていただいているんですよ。※2


あとはショート動画なども含めてSNS運用をやっていたり、CMを作ったり、特にデジタルを中心に累計2,000社以上のマーケティングを支援しています。リチカが提供するというところが、従来のシステムベンダーや、SaaSのスタートアップとはちょっと違う点だと考えています。

 

※2:出典「 『グラニフ』がリブランディング。リチカがコミュニケーション戦略立案やビジュアル制作を支援。」(PR TIMES・2021)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000125.000025039.htm

田中

すごいですね。私はSaaSのスタートアップだと思っていました(笑)。

松尾氏

私もこの間までSaaSのスタートアップだと思っていました。主軸は変わらないですが、元々は制作会社です。クリエイティブエージェンシーからスタートして、ダイレクト広告系のコンテンツ制作からSaaSにシフトし、周辺領域をやった結果、オーダーが増えました。

田中

そのあたりのクリエイティブもAIを使っているのですか。

松尾氏

使っている部分と、使っていない部分があります。私たち自身もツールやAIで100%、人の仕事を代替できると思っておらず、100%ある業務のうち50%~60%をAIが担っていくような考えです。本当にクリエイティブな仕事はやはり人がやるべきだと思っているので、そういった思想が詰まってるプロダクトです。

田中

本質的なクリエイティブ領域こそ人がやるべき、という思想には非常に共感します。リチカクラウドはペルソナの描出や、LP情報から簡単にTDを自動生成するなど、広告担当者の痒いところに手が届くプロダクトだと感じたので、事業ドメインが広告代理店に近いということをお伺いして、腹落ちしました。

 

※Web広告のタイトルとディスクリプション

松尾氏

これから怒涛のアップデートをかけていきます。生成AIが出てくる前から、クリエイティブの自動化の研究をしているのですが、行き着いたのはマーケティング業務のプロセスを理解して、この経験を正しく積んでいかないと、アウトプットの品質が良くないということです。なので一度これらの業務をやることは重要だと思っており、より強化していく予定です。

田中

特にTDは微妙な領域ですよね。基本的には広告オペレーターの延長線上の作業で、意外と軽視されています。商材理解や文字数制限など、さまざまな制約のなかで伝わりやすいライティングにするなど、オペレーションにクリエイティブ要素も含んだ、時間のかかる重要な業務です。

 

そこを、AIにLPを学習させるだけで広告運用のベテランと同等のパフォーマンスや品質を担保できるなんて、需要しかないですね。

松尾氏

私たちの広告代理業の例でいうと、バナーの訴求軸は元々15年選手のコピーライターに発注していました。依頼してから作成するまでに、どれだけ優秀なダイレクト系の広告のコピーライターでも、初稿まで2営業日、校了まで1週間ぐらいかかるのが一般的です。


ですが、リチカクラウドを作ったタイミングから、新卒でもコピーが書けるようになり、スピーディーに先方の担当者に出せるので、工数でいうと9割程度削減することができました。採択率は人間と変わりません。

 

あとは、プロフェッショナルな人に限らず、新人教育をショートカットする育成観点でご利用いただく企業の例もあります。リチカクラウドを使うと、入社した日から一定のマーケター武装ができるわけです。


今まで営業やサポートしかできなかった人たちが、TDやディスプレイ広告・動画広告の提案ができるようになったというような事例も増えています。

田中

広告のクリエイティブこそ、データ駆動型の意思決定と絶え間ないPDCAが必要です。まさにその課題を解決し、品質から生産性、育成までカバーしてくれるとは驚きですね。ぜひ私にも、マーケター武装をお願いします。

松尾氏と田中が話している様子

 

前編ではデジタル広告業界の変化とクリエイティブの進展について話をお伺いしました。
≪後編≫では、デジタル広告の内製化とこれからのクリエイターが目指すべき指針、デジタル広告の未来についてお話をお伺いします。

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

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