• DX

建設業界DXの先進事例8選:効率化とサステナビリティを実現する最新技術

建設業界は、人手不足や長時間労働、コスト削減というプレッシャーに直面しています。加えて、環境負荷の低減や安全性の向上といった課題に取り組む必要があり、DXが進んでいます。
 
テクノロジーがもたらす施工の自動化、効率化、そしてサステナブルなビジネスモデルの構築は、企業にどのような変革をもたらすのでしょうか。本記事では、建設業界におけるDXの先進事例を取り上げ、その可能性を探ります。

目次

人手不足時代のブレイクスルーとして、建設DXが生産性を変える

日本の建設業界は、深刻な人手不足に直面しています。日本全体で労働人口が減少するなか、建設業界の就業者数は1997年のピーク時685万人から2023年には483万人へと約7割に減少し、特に技能者はピーク時に比べて66.2%も減少しました。
 
建設業就業者数の推移のグラフ

※1:出典「建設労働」(日本建設業連合会・2024)
https://www.nikkenren.com/publication/handbook/chart6-4/index.html

付加価値労働生産性の推移のグラフ

※2:出典「生産性と技術開発」(日本建設業連合会・2024)
https://www.nikkenren.com/publication/handbook/chart6-5/index.html

現場の労働生産性に目を向けると、過去20年間で製造業の生産性が向上している一方で、建設業は停滞しています。これは、建設業が持つ単品受注生産などの特殊性や、工事単価の下落などが一因とされています。このような危機感を背景に、日本建設業連合会は2015年に「2025年度までに35万人の省人化」を目標とした長期ビジョンを策定。業界全体で生産性向上に取り組んできました。
 
大手ゼネコンである鹿島建設、清水建設、竹中工務店が中心となり、ロボティクスによる変革を進める「建設RXコンソーシアム」、国土交通省が主導するICTを活用した生産性向上と労働環境改善を目指す「i-Construction」など、DXの大きな流れが広がっています。では、建設業界の現場では具体的にどのようなDXの取り組みが進んでいるのでしょうか。建設DXを3つの軸に分けて解説します。
 
建設業界が取り組むDXの3軸
内容 DX推進による効果
デジタルを活用した建設テック BIM、CIM、デジタルツイン、データドリブンコンストラクションを活用し、設計から施工、維持管理までをデジタルで一元管理 業務効率の向上やコストの削減
自動化による生産性向上 建設ロボット、遠隔操作・自動化された重機、AR/MRによる可視化 人手不足解消、作業効率化
IoTデバイスやドローン、AIを活用したモニタリング センサーやAIを活用した現場のモニタリング、ドローンによる監視、3Dスキャニング 安全性向上、測量精度とスピードの向上

 

建設業界は、紙とペンによる設計からコンピューター支援設計(CAD)を取り入れ、デジタル化が進んできました。現在、建設DXの一環として「デジタルを活用した建設テック」が注目されています。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)といった3Dモデルの活用により、設計から施工までを一元管理することが可能です。
 
国土交通省の調査※3によると、建設業界の48.4%がBIMを導入しており、導入による効果を「非常に大きい」「大きい」と評価する部署は41.2%に達しています。
 
自動化技術の進展も顕著です。建設ロボットや自動化・遠隔化された重機の導入により、5G通信の普及を背景に「自動化による生産性の向上」が進んでいます。中堅・中小企業でも建設機械の遠隔操作やリモート施工管理が現実となり、現場とオフィスをシームレスに結びつけています。
 
また、「IoTデバイスやドローン、AIを活用したモニタリング」により、建設現場の監視や測量が従来よりも正確かつ迅速におこなえるようになりました。これにより、事故の予防や早急な対応が可能となり、安全性の向上が図られています。これから、ビル建設やインフラ整備、保守・メンテナンスなどの分野で進む先進的な事例を見ていきましょう。
 

※3:出典「建築分野におけるBIMの活用・普及状況の実態調査」(国土交通省・2022)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/20230328_15.pdf_safe.pdf

1.デジタルを活用した建設テック

Skanska(スウェーデン)/デジタル技術を活用してサステナブルな建設プロセスへ

DX推進の背景

Skanskaは、1887年に設立されたスウェーデンの多国籍建設・開発企業で、建設・土木、住宅開発、商業不動産開発で事業を展開しています。同社は建設業界におけるサステナブルを追求し、プロジェクトの効率化や品質向上、コスト削減を実現するためにDXに注力してきました。
 

DX推進の成果

Skanskaは建設プロジェクトにBIMを活用した先駆けの企業です。近年はデジタルツインも活用してプロジェクトを管理しています。これにより、建設プロジェクト全体のライフサイクルが可視化され、リアルタイムで進捗管理が可能になりました。A428 Black Cat to Caxton Gibbet Improvement Schemeというプロジェクトではデジタルツインの導入によって150万ポンドのコストを削減し、納期を6ヵ月から2ヵ月に短縮する成果を上げています。

※4:出典「Digitalisation」(Skanska・2024)
https://www.skanska.co.uk/expertise/sectors/education/our-approach/digitalisation/
※5:出典「Digital Construction Awards 2024 shortlist: Best Use of Data」(Construction Management・2024)
https://constructionmanagement.co.uk/digital-construction-awards-2024-shortlist-best-use-of-data/

清水建設(日本)/BIMデータの共有で施工をスマートに管理する

DX推進の背景

清水建設は業界をリードする大手ゼネコンで、「ものづくり(匠)の心を持ったデジタルゼネコン」というビジョンのもとでDXを推進してきました。「DX銘柄2022」に選定されるなど、「デジタルゼネコン」としてプレゼンスを高めています。全社的にDXを進めていますが、ここでは複雑なプロジェクトが増加するなか、設計から施工、維持管理までの情報を一元管理する効率化を求めた取り組みにフォーカスしています。
 

DX推進の成果

清水建設は、5億円超を投じて、建築の設計・施工・製作・運用をBIMでつなぐプラットフォーム「Shimz One BIM」を構築しています。Autodeskが提供するクラウド型サービス「BIM360Docs」などと連携させ、リモートでの施工管理を支援しています。これらのBIMデータをリアルタイムに共有することで、社員が往復4時間をかけておこなっていた現場巡回を30分に削減しました。生産性の向上はもちろん、働き方改革にも貢献しています。

※6:出典「子どもたちに誇れるしごとを。清水建設」(清水建設・2024)
https://www.shimz.co.jp/

2.自動化による生産性の向上

ABB(スイス)/建設ロボティクスの導入で生産性を劇的に向上

DX推進の背景

ABBは、スイス・チューリッヒに本社を置く多国籍企業で、電力関連や重工業分野でグローバルに事業を展開しています。建設業界における自動化のリーディングカンパニーとして、労働力不足や環境問題のソリューションになるロボティクス技術を開発してきました。
 

DX推進の成果

同社のロボットは先駆的なソフトウェアの組み込みにより、基礎工事や鉄骨組み立てといった手作業を代行し、作業時間の短縮やヒューマンエラーによる手戻りを削減しています。生産性、品質の向上を目的としたパイロットプロジェクトでは、生産効率が5%、速度が38%向上し、廃棄物を30%削減することに成功しています。

※7:出典「ABB Robotics advances construction industry automation to enable safer and sustainable building」(ABB・2021)
https://new.abb.com/news/detail/78359/abb-robotics-advances-construction-industry-automation-to-enable-safer-and-sustainable-building

Trimble(アメリカ)/MRソリューションで建設現場の施工管理を革新する

DX推進の背景

Trimbleは、1978年に設立され、アメリカ・カリフォルニア州に本社を置くテクノロジー企業です。同社は建設、農業、地理空間情報など多岐にわたる分野でソリューションを提供してきました。建設業界で課題となっている複雑な施工手順や頻繁な設計変更を解決し、コスト削減とスピードアップを図るため、従来の2D図面では理解が難しい情報について、視覚的に把握できるようにすることを目指していました。
 

DX推進の成果

TrimbleはMR技術を活用した「Trimble Connect for HoloLens」や、ヘルメット一体型のMRデバイス「Trimble XR10」を開発し、建設現場の施工管理を大きく進化させました。このシステムはBIMデータをMR空間に投影して、実際の現場と重ね合わせて3Dで可視化します。これにより、複雑な施工手順の直感的な理解が可能となります。コスタリカのプロジェクトでは建設中に施主主導の設計変更を減らして予算の2%以上を削減し、年間1万8,000ドル以上の出張費を削減しています。

※8:出典「Trimble XR10」(株式会社ニコン・トリンプル・2024)
https://www.nikon-trimble.co.jp/TrimbleXR10/
※9:出典「Trimble_Mixed_Reality_Solution導入事例」(株式会社ニコン・トリンプル・2021)
https://www.nikon-trimble.co.jp/bld/file/Trimble%20XR10_TCHpremium_usecase_meridia.pdf

鹿島建設(日本)/生産性を2倍にし、環境負荷を50%削減した施工革命

DX推進の背景

鹿島建設は、ダムやトンネルなどの大規模建設プロジェクトを手掛ける日本の大手ゼネコンです。建設業界では、近年、人手不足や労働災害のリスクが課題でした。同社は効率的で安全な施工を実現するために、自動化技術による施工プロセスの効率化にフォーカスしました。
 

DX推進の成果

鹿島建設は、自動化施工システム「A4CSEL(クワッドアクセル)」を開発しました。このシステムは、GPSや各種センサーを活用し、複数の建設機械を自動運転で制御するものです。このシステムにより、1人のオペレーターが複数の重機を同時に操作でき、工期短縮と人員削減を実現しました。成瀬ダム工事では、15台の自動化機械を4人で管制し、有人運転に比べてCSG(コンクリートの一種)のまき出し量を約2倍に増加させ、大幅な効率化を実現しました。A4CSELの導入により、燃料使用量を約40~50%削減し、CO2排出量の抑制にも成功しました。この技術により、従来の3分の1の人員で作業が可能になり、生産性と安全性が大幅に向上しています。

※10:出典「成瀬ダムで自動化施工システムによる『現場の工場化』を実現」(鹿島建設株式会社・2023)
https://www.kajima.co.jp/news/press/202310/13c1-j.htm
※11:出典「自動化施工システムA4CSELによるCO2抑制効果を確認」(鹿島建設株式会社・2023)
https://www.kajima.co.jp/news/press/202306/8c1-j.htm

3.IoTデバイスやドローン、AIを活用したモニタリング

Dassault Systemes(フランス)/バーチャルツインで建設時の環境負荷を30%削減

DX推進の背景

Dassault Systemesは、1981年に設立されたフランスのソフトウェア企業で、3D設計、シミュレーション、製造に特化したソリューションを提供しています。建設業界では、複雑なプロジェクトの効率化と持続可能性向上のために、デジタル技術の導入が急務で、特にライフサイクル全体で環境影響を評価したり、材料を最適化したりすることが課題となっています。
 

DX推進の成果

同社は建物のライフサイクルを一気通貫でデジタル化する3DEXPERIENCEプラットフォームを開発しました。このプラットフォームは、バーチャルツイン技術を用いて、エネルギー効率のシミュレーションや材料使用量の最適化を可能にし、環境への影響を予測・最小化します。建設プロジェクトにおける環境負荷を30%以上削減した実績を持っています。

※12:「3DEXPERIENCEプラットフォーム」(Dassault Systemes・2024)
https://www.3ds.com/ja/3dexperience
※13:出典「Bouygues Construction: From BIM to Virtual Twin」(TRIMECH・2022)
https://www.solidsolutions.ie/blog/2022/10/bouygues-construction-from-bim-to-virtual-twin/

Autostrade per l'Italia(イタリア)/AIとIoTの活用で高速道路インフラを予防的にメンテナンス

DX推進の背景

Autostrade per l'Italiaは、イタリア国内で約3,000kmの高速道路ネットワークを管理しています。同社は、老朽化するインフラの維持管理で安全性と効率を向上させるため、DXに取り組んでいます。特に、広大なインフラの効果的な監視と迅速な対応が課題となっています。
 

DX推進の成果

同社はIBMおよびFincantieri NexTechと提携し、AIとIoTを活用したインフラのリアルタイムモニタリングシステム「Argo」を開発しました。このシステムは4,000以上の橋や高架橋、トンネルをリアルタイムで監視し、データを継続的に収集・解析します。これにより、インフラの劣化や欠陥を早期に検出し、予防的メンテナンスが可能になります。さらに、3Dデジタルツイン技術で構造物の経年変化を分析したり、AIによる画像解析で欠陥を自動的に検出したりするアプローチで安全性を向上させています。

※14:出典「A singular focus on the road ahead」(IBM・2024)
https://www.ibm.com/case-studies/autostrade-italia

竹中工務店(日本)/ドローンとAIによる外壁検査で安全性と効率性を向上

DX推進の背景

竹中工務店は、日本を代表するゼネコンです。建設業界では熟練技術者の高齢化や人手不足が進んでいますが、特に高い精度が求められるのが外壁の検査です。このため、効率的かつ安全に外壁検査をおこなうための取り組みが急務となっています。同社はドローンを共同開発するなど、先進システムやデバイスの実装を進めています。
 

DX推進の成果

竹中工務店は、ドローンを用いた外壁タイル検査システムを開発しました。このシステムは、ドローンが外壁を自動撮影し、AIによる画像解析でタイルの浮きや剥落の危険性を検出するものです。これにより、熟練技術者でも見落とす可能性のある微細な異常も発見でき、従来の目視検査に比べて検査時間を短縮。高所作業が不要になるため、安全性も向上します。同社は道路や駐車スペースの車両台数を判定、データ連携による混雑度可視化の実証実験に取り組んでおり、ドローンのさらなる活用に意欲的です。

効率化から変革へ―建設業界で進むデジタル革命

矢野経済研究所の調査によれば、2024年度の建設現場DX市場は586億円、2030年度には1,250億円に達する見込みです※15。この成長は、建設業界の課題となっていた生産性向上だけではなく、働き方改革や安全性の向上を支えていくものです。建設DXでは、BIMやデジタルツインを活用したデータドリブンな管理が主流です。Skanskaのプロジェクトでは、デジタルツインによる進捗のリアルタイム管理がコスト削減と納期短縮に貢献し、清水建設の「Shimz One BIM」はリモート施工管理で生産性向上を実現しています。

さらに、5G通信の普及により、AIと連携した建設機械の遠隔操作が進み、労働力不足や危険作業の解消に役立っています。自動化技術では、ABBがロボット技術で生産性向上と廃棄物削減を達成し、鹿島建設の「A4CSEL」システムは自動制御によって生産性の向上と環境負荷の軽減を実現しました。IoTやAIを活用したモニタリング技術も進化しており、Autostrade per l'Italiaはインフラのリアルタイム監視システムを導入し、早期の劣化検出と予防的メンテナンスに成功しています。

建設DXは、単なる効率化にとどまらず、建設プロセスそのものをドラスティックに変革する鍵になります。今後、スマートシティやサステナブルを目指したインフラの整備が求められるようになれば、建設業界はデータドリブンなアプローチへの対応、業務の高度化が求められます。変革の波に乗り遅れないためにも、積極的なDX推進に取り組むときです。

※15:出典「建設現場DX市場に関する調査を実施(2024年)」(矢野経済研究所・2024)
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3553

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

ページ上部へ