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競争力を高めるDX人材育成の秘訣は?組織変革とスキル戦略

現代のビジネス環境では、DXの進展が企業の競争力を左右する重要な要素となっています。しかし、その取り組みを加速できている企業は一部にとどまり、自社の施策が十分だと感じている企業は決して多くありません。DX人材の育成が進まないことなど、組織内の課題が大きな壁となっています。

本記事では、なぜDX人材の育成がこれほど重要なのかを掘り下げ、その背景と課題を整理します。さらに、実際の企業事例を通じて、DX人材育成の成功ポイントや実践的なアプローチを探っていきます。DXの鍵となる人材の課題と可能性を掘り下げて考えていきましょう。

目次

DX人材不足が生む危機

DXの推進は、競争力を維持するために不可欠な取り組みです。しかし、日本企業はDXを実現するために必要な人材を確保できず、大きな課題に直面しています。

世界に遅れを取る日本のDX

国際デジタル競争力ランキングで日本は31位に低迷しています※1。他のアジア諸国が着実に順位を上げるなか、日本は依然として国際的な競争力の差を縮められていません。2024年版では31位と前年から1つ上昇しましたが、技術面の改善にとどまり、ビジネス活用や人材育成の面では課題が山積しています。

日本のDX市場は年々拡大しており、2030年には約6兆5,195億円に達すると予測されています。一方で、DXを支える人材育成の状況は進んでいません。DX白書によれば、リスキリングを実施している企業は全体の約30%にとどまり、米国の約8割と比べて大きく遅れています※2。このギャップが、市場成長の足かせとなるリスクがあるのです。

社員の学びの方針の日本と米国の差※1:出典「IMD World Digital Competitiveness Ranking 2024」(IMD・2024)
https://www.imd.org/centers/wcc/world-competitiveness-center/rankings/world-digital-competitiveness-ranking/
※2:出典「DX白書2021」(独立行政法人情報処理推進機構・2021)
https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/qv6pgp0000000txx-att/000093706.pdf

広がるDX格差、大手と中小企業の実情

経済産業省の調査※3によると、2030年までにDX人材が約79万人不足すると予測されています。この深刻な課題に対し、大手企業ではDX推進プログラムが進んでいる一方、中小企業では予算やリソースの不足が大きな障壁となっています。

具体的には、従業員1,001人以上の大企業の96.6%がDXに取り組んでいるのに対し、従業員100人以下の小規模企業では44.7%にとどまっています※4。さらに、業種別でも濃淡があり、金融業・保険業では97.2%と高い割合でDXが進んでいる一方、サービス業は60.1%と遅れています。このギャップを埋めることが、日本全体のDX推進に不可欠です。

 

DXの取組状況(従業員規模別)のグラフ

※3:出典「IT 人材需給に関する調査」(経済産業省・2019)
※4:出典「IPA DX動向2024」(独立行政法人情報処理推進機構・2024)

DX人材とは何か?企業変革を支えるスキルと役割

次に、DX人材の役割と必要なスキルについて考えていきましょう。DXを推進する人材は、単なるデジタルスキルの保持者ではありません。複雑化するビジネス環境のなかで、領域を超えた視野とスキルを発揮し、組織変革を牽引するリーダーとしての役割が求められています。しかし、企業が抱える課題は依然として深刻です。

社会全体の人手不足も影響し、DXを進める人材の「数」も「質」も大幅に不足しているとの声が年々増えています。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査※5によれば、DX人材の「量」に課題があると回答した企業の割合は、2021年度の30.6%から2023年度には62.1%へと倍増。また、「質」に課題があるとする企業も、2021年度の30.5%から2023年度には58.1%まで増加しました。

 

DXを推進する人材の「量」の確保(経年変化および米国との比較)のグラフ

 

DXを推進する人材の「質」の確保(経年変化および米国との比較)のグラフ

DXへの取組の設問で「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」
「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取組んでいる」と回答した企業が対象

 

これらのデータは、DX推進が本格化するなかで、必要な人材を確保できていない企業の現状を浮き彫りにしています。量と質の両面での人材不足は、日本企業の競争力を大きく左右する問題です。この現状にどのように対応すべきかが、企業の未来を左右する鍵になるのです。
※5:出典「IPA DX動向2024」(独立行政法人情報処理推進機構・2024)

 

DX推進の要、組織内の人材育成が可能性を開く

日本企業では、DX人材やデジタル人材を外部から調達する傾向が根強く残っています。しかし、この方法にはコストの増加や、企業文化への適合性といった課題も伴います。こうしたリスクを軽減し、持続可能なDX推進を実現する鍵となるのが、自社内での人材育成です。

自社のサービスやプロダクトを深く理解する社員をDX人材として育成することで、企業特有の業務フローに即したデジタル化戦略を展開できます。これは短期的な成果にとどまらず、競争優位性を維持するための長期的な基盤につながります。一方で、外部リソースに依存する場合、迅速な成果は得られますが、コスト負担が大きく、長期的な適応力の低下を招くリスクがあります。こうしたリスクを回避し、変化に対応し続ける組織力を育む手法として、自社内での人材育成化――つまり「内製化」が注目されているのです。

第一歩は人材配置。DX推進の鍵となる3スキルとは

DX人材やデジタル人材とは、デジタル技術を活用し、企業の変革を推進するスキルを持つ人材です。DX人材は、デジタル変革を推進するリーダーシップと多領域にわたるスキルを備え、戦略的視点が求められます。一方、デジタル人材は、特定のデジタルスキルを活用して業務遂行に貢献する専門人材を指します。

このように、DX推進では単なる専門技術だけでなく、マルチスキルを横断的に活用できる柔軟性が重要です。次の表は、DX推進に不可欠な3つのスキル領域を整理したものです。

 

DX推進に必要な3つのスキル領域とその役割
スキル領域 具体例 求められる力
技術スキル データ解析、クラウド技術、AI開発など 最新のデジタル技術を活用して、企業の競争力を強化する能力
ビジネススキル プロジェクト管理、部門間連携を図るコミュニケーション力 組織内外の連携を進め、成果を最大化する能力
変革スキル 現状分析、組織やプロセスの効率化・最適化 既存の枠組みにとらわれず、柔軟に組織変革を実行する能力

これらのスキルを兼ね備えたDX人材を適切に配置することが、企業変革の第一歩となります。DXの成否を左右するのは、こうした人材をどのように育成し、どのように活用するかにかかっています。実際に、DX人材育成に成功している企業の取り組みから育成の具体策を見ていきましょう。

国内企業のDX人材育成から学ぶ成功のポイント

NTTコムウェア/DXリーダー育成で全社推進を加速

DX推進を加速するために、データ活用人材の育成に注力しています。特に、社内認定制度「ComCP+」にデータサイエンティストの枠を設け、社員のスキル状況を把握する仕組みを構築しました。さらに、「AIプランナー」「AIエンジニア」を育成するプログラムを強化し、基礎から実践までレベルに応じた研修を提供しています。

NTTグループ全体では、2025年度までにデータ活用人材5,000人の育成を目標としており、2022年度時点で累計3,413人を育成しました。これらの取り組みにより、NTTコムウェアはDXを牽引するリーダー層の育成を進めています。

※6:出典「2023 CSRハイライト」(NTTコムウェア・2023)
https://www.nttcom.co.jp/assets/pdf/csr/2023csr_HL.pdf

SOMPOホールディングス/AI研修で顧客満足度向上を実現

全社員をDX人材として育成することを目指し、AIやデータ活用を中心とした研修プログラムを展開しています。特に注目すべきは、2022年度に実施された「AI研修プログラム」です。この研修は、AIチャットボットや音声認識技術を活用した業務改善を学び、実務への適用を促進。さらに、専門スキルを深める「Data Science BOOTCAMP」も開講し、データ分析とAI技術を駆使した成果を挙げています。

これらの取り組みの結果、カスタマーセンターでは通話内容の要約自動化や「教えて!SOMPO」システムを導入。顧客対応のスピードと品質が向上し、2023年のHDI-Japan格付けベンチマークで2年連続最高評価の『三つ星』を獲得しました。

※7:出典「SOMPOホールディングス サステナビリティレポート 2024」(SOMPOホールディングス・2024)
https://www.sompo-hd.com/-/media/hd/files/doc/pdf/disclosure/hd/2024/hd_disc2024_1.pdf

日清食品ホールディングス/「デジタルを武装せよ」のスローガンで内製化を推進

「Digitize Your Arms」をスローガンに掲げ、全従業員のデジタルスキル向上に取り組んでいます。その中心には、「ローコード開発ツール」を活用した業務改善システムの内製化があります。このツールにより、各事業部門がアプリケーションを独自開発し、生産供給量の可視化や販促施策の効果分析を迅速化。従業員の主体性を引き出し、DX推進の基盤を強化しました。

さらに、クラウド型データウェアハウス「Snowflake」を活用し、分散していたデータを統合。迅速なデータ分析を可能にし、商品開発から生産計画、マーケティングに至るまでデータドリブンな意思決定を推進しています。これらの取り組みを通じ、業務効率化と全社的な競争力向上を実現しました。

※8:出典「Snowflake 導入事例」(Snowflake・2024)
https://www.snowflake.com/ja/customers/all-customers/case-study/nissin/

DX人材育成の課題と未来への解決策

なぜDX人材育成は難しいのか?3つの課題

成功事例の影には、課題も存在します。次に、DX人材育成の難しさと解決策を探ります。DX人材の育成には、組織、スキル、人材文化といった多面的な課題が存在しています。それぞれの課題を具体的に把握し、適切な解決策を講じていかなければなりません。

DX人材育成の障壁とは?組織・人材・文化が抱える課題
課題領域 具体例 課題の本質
組織の壁 部門間の連携不足 部門ごとの目標やスキルギャップが原因で、DX推進の統一的なビジョンが欠如
人材の壁 DXスキル人材の採用と育成の難しさ 高い専門スキルを持つ人材の採用競争が激化し、育成にも長期的な投資が求められる
文化の壁 試行錯誤を許容しない企業風土 保守的な企業文化がイノベーションを阻害。新しいアプローチの導入に対する抵抗が高い
これらの壁は、DX推進におけるボトルネックになりますが、同時に解決への糸口を探ることで企業の競争力を高める好機としても考えられます。

障壁を乗り越えるためのアプローチ

DX人材育成の課題を解決するためには、「採用強化」「専門家の力を活用」「実践を通じたスキル向上」「文化を変える長期的取り組み」という4つのアプローチが有効です。

まず、「採用強化」に向けた取り組みです。新卒採用では、デジタルスキルを重視したインターンシップの実施や、AIやクラウドの技術に関する資格取得支援をおこなうことで、意欲ある学生を早期に獲得します。中途採用においては、即戦力となるDX経験者の採用に加え、柔軟なプロジェクト型ワークや高度なデジタル環境を整備し、専門性を存分に発揮できるフィールドを提供することが重要です。

次に、「専門家の力を活用」する取り組みでは、DXに特化したトレーニングプログラムや外部研修の導入が重要です。特に、データ分析やAI活用に特化した短期集中プログラムを通じて、即戦力となるスキルを効率的に習得できます。

「実践を通じたスキル向上」では、OJTやパイロットプロジェクトを通じて、現場の課題解決に取り組みながら実践力を育成します。チーム全体で成果を共有することで、現場のモチベーション向上も期待できます。

最後に、「文化を変える長期的取り組み」として、失敗を学びとする風土を醸成し、試行錯誤を歓迎する企業文化を育てます。マネジメント層が率先して変革を推進し、柔軟な組織を運営することが、持続可能な成長への鍵となります。

DX人材が組織に与える価値と、そのための投資とは

DX人材の育成は、単なるスキル向上を超えて、企業全体の競争力を強化する戦略的な投資です。市場の変化に即応する「柔軟性」や、内製化による持続可能な「組織力の向上」など、DX人材の価値は未来の成長を支える柱になります。

先導する人材と、そのリソースを考える

DX推進の成功には、リーダー、ミドル、現場といった各層がそれぞれの役割を果たすことが求められます。それぞれに必要なスキルと投資を整理しました。

役割と投資で見るDX人材の3層構造
人材レベル 必要スキル 必要な投資
戦略人材(経営層) 戦略的思考、全体像の描画力 DX戦略の理解を深める研修、業界成功事例を共有するラウンドテーブルへの参加
推進人材(ミドル層) 部門間連携力、プロジェクト管理、コミュニケーション リーダーシップトレーニング、PMPなどの資格取得支援
実行人材(現場層) 技術スキル、顧客ニーズ対応力、柔軟性 実務を通じたスキルアップの場を提供、部署横断型のナレッジシェア会

DX推進の成功には、さまざまなレイヤー層がそれぞれの役割を果たす必要があります。また、DX人材やデジタル人材の技術的スキル育成だけでなく、企業文化の変革が欠かせません。その実現には、「時間」「資金」「人的リソース」への投資が重要です。

まず、社員が学ぶ時間を確保するために、業務フローを見直し、余裕を生み出すことが必要です。さらに、オンライン教育プラットフォームの利用補助や外部講師を招いた研修を通じて、学びの機会を充実させます。また、メンター制度を活用し、既存社員が次世代DXリーダーの育成を支援する体制を整えます。これらの取り組みは、短期的な成果にとどまらず、企業の長期的な競争力を支える強固な基盤になります。

DX人材が導く変革。持続的な競争力を築いていくために

DX人材の育成は、単なる人材確保を超え、企業が持続的な成長を実現するための鍵を握る戦略的な投資です。市場変化が加速する現代において、迅速な対応力とデジタルスキルを備えた人材が、未来の競争優位性を支える基盤になります。

ただし、DX人材の育成はスキルセットの向上だけで完結するものでありません。変革の本質は、個人の能力と組織文化が一体となり、全社を動かす推進力を生み出すことにあります。試行錯誤を許容し、挑戦を称える企業文化を育むことで、小さな成功体験を組織全体の自信と変革の原動力に変えていくのです。

DX人材の育成に取り組むことは、単なるコストの負担ではありません。それは、未来の可能性に投資し、次の時代を切り開く準備を整える能動的なアクションです。企業規模や業種を超えて解決すべき課題であり、戦略的に進めていくことが求められています。

 

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

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