執筆者紹介

株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。
AIやIoT技術の進化に伴い、自動運転車は進化を遂げています。しかし、リスクや課題も顕在化しつつあります。McKinseyによると、自動車のサイバーセキュリティ市場は2020年の49億ドルから2030年には97億ドルに達する見込み※1です。この急速な成長は、自動運転車が直面する新たな脅威を浮き彫りにしています。
自動運転車は150以上のECU(電子制御ユニット)を搭載する「移動するデータセンター」になっています。サイバー攻撃者が車両制御システムを標的にした場合、車両の不正操作や、通信インフラへの侵入によって大規模なインシデントを引き起こすリスクがあります。
自動運転技術の進展に伴い、データプライバシーも重要な課題です。自動運転車は1日あたり767TBものデータを処理しますが、この膨大なデータには運転者の行動、位置情報、さらには車内のやりとりなど、極めてプライベートな情報が含まれます。こうしたデータが適切に管理されずに漏洩した場合、情報の漏洩や個人のプライバシーが侵害されるリスクが増大します。
また、自動運転の安全性と信頼性を支える基盤として、センサーフュージョンやデータクレンジングが不可欠です。センサーフュージョンでは、複数のセンサーからデータを統合して精度を高めますが、センサー間で不一致が生じると、誤検知や誤判断のリスクがあります。同様に、データクレンジングのプロセスでは、センサーやデバイスの不具合、ノイズを迅速かつ正確に特定・排除しなければなりません。これらの課題は、自動運転車が安全かつ効率的に機能するためには欠かせないポイントになり、技術革新や管理体制の整備が急務です。
領域 | 具体的な課題 |
サイバーセキュリティ | 自動運転車は150以上のECU(電子制御ユニット)を搭載しており、サイバー攻撃のポイントが増える |
データプライバシー | 自動運転車は1日で767TBものデータを処理。このデータは、車両内のセンサー、カメラ、クラウド通信を介して収集されるが、管理不全や不正利用リスクが拡大 |
センサーフュージョン | 各センサーからのデータを統合する際のノイズや不整合の発生リスク。LiDARとカメラが認識した物体が異なる場合、歩行者や障害物の検知ミス、車両間距離の誤測定につながる可能性がある |
データクレンジング | 異常値や不正確なデータがシステムに混入し、AIモデルの判断に誤りが生じるリスク。歩行者や障害物の誤認や、不要な急停止が発生するなど、安全性に影響を与える恐れがある |
自動運転車は、約150のECU(電子制御ユニット)と1億行以上のコードを搭載する「移動するデータセンター」です。それぞれが潜在的な攻撃ポイントとなり、基本的な運転機能までもがハッカーの標的になる可能性があります。
情報処理推進機構によると、自動運転車は1日あたり767TBものデータを処理※2をしており、このデータが管理不全に陥った場合、サイバーセキュリティリスクがさらに拡大する可能性があります。例えば、2023年12月には、ドイツの研究者がテスラのオートパイロットシステムをハッキングし、通常はアクセスできない「エグゼクティブモード」を確認しました※3。
また、2024年2月には、カリフォルニア大学アーバイン校の研究で、LiDARセンサーを操作して自動運転システムに誤動作を誘発するという攻撃手法が発見されています※4。これらの事例は、複雑化する攻撃ポイントが自動運転技術の信頼性を脅かしていることを示すものです。
自動運転では、車両内のシステムから運転履歴や位置情報などを収集します。しかし、これらのデータがサイバー攻撃者によって不正利用されるリスクが指摘されます。2024年12月のBlack Hat Europeカンファレンスでは、自動運転システムの脆弱性を悪用して「車両内のマイクを制御して乗員の会話を録音する」攻撃が発表されました※5。この脆弱性は約140万台の車両に影響を与える可能性が指摘されており、データの保護がますます重要視されています。
自動運転技術は、次世代モビリティの核として進化を続けています。その実用化には、膨大なデータを活用したAI解析やセンサー技術が不可欠です。本章では、アメリカ、日本、シンガポールで展開されている自動運転技術の代表的な事例を取り上げ、それぞれが目指す社会的価値や技術革新の方向性を探ります。
背景と取り組み
Waymoは、Googleの親会社であるAlphabet傘下で自動運転技術を開発する企業で、業界のフロントランナーとして知られています。同社は、高度なセンサー技術とAI解析を駆使し、安全で信頼性の高い自動運転ソリューション「Waymo Driver」を構築。カメラ、LiDAR、レーダーを組み合わせた独自の技術により、周囲環境をリアルタイムで正確に把握する能力を備えています。
Waymo Driverを搭載した車両は、ライダーオンリーマイル(完全自動運転モードの走行距離)がオンリーマイル)で約5310万km(2024年9月時点)を達成しており、フェニックス、サンフランシスコ、ロサンゼルス、オースティンの4つの主要都市のエリアをカバーしています。
さらに、同社は安全性評価の新たな基準を導入。100万マイルあたりの衝突発生件数やエアバッグ展開を伴う衝突など、包括的なデータ分析を実施しています。また、業界全体での協力体制を構築し、外部専門家による検証や透明性の確保を通じて、社会的信頼の向上を目指しています。エンドユーザー向けの教育・啓発活動を展開することで、自動運転技術の社会実装を一層推進しています。
期待される成果
リアルタイム環境認識:カメラ、LiDAR、レーダーを活用した正確な周囲環境の把握。
透明性の向上:安全性データの定期公開と外部検証の受け入れ。
多様な交通環境への対応:各都市での性能データ分析による適応性の証明。
包括的な安全評価:新たな指標を導入したデータ分析で安全性を強化。
協調走行:車間通信(V2X)を用いた連携で燃費効率と渋滞緩和を実現。
リアルタイムデータ解析:データ分析による最適運転制御で、安全性と効率性を強化。
環境認識の向上:LiDARなどのセンサー技術により、悪条件下でも安定した運行が可能。
環境負荷軽減:エネルギー効率の改善とCO2削減を達成。
背景と取り組み
シンガポールでは、2016年に米国のスタートアップ企業nuTonomyが自動運転タクシーの実証実験を開始しました。この取り組みは、政府主導の「スマート国家(Smart Nation)」構想の一環として推進されています。初期段階では、one-north地区を拠点に公道実験が進められ、複数の自動運転車を使用して実験が進められました。2024年現在、シンガポール政府は、交通効率化と持続可能な都市開発を目的に自動運転技術の導入をさらに拡大しています。
nuTonomyはその後Delphi Automotive(現Aptiv)に買収され、現在はMotionalの一部として活動を継続。さらに2024年には、シンガポール最大のタクシー会社ComfortDelGroが、中国の自動運転技術企業Pony.aiと提携し、大規模な商用ロボタクシー運行を計画しています。この提携は、まず中国での運行を開始し、その後、シンガポールを含む他の国際市場にも展開する予定です。これらの取り組みは、自動運転技術を都市交通に適応させる実用的な実験として注目を集めています。シンガポールは都市交通の未来像を描くリーダーとして、持続可能なモビリティ実現に向けたグローバルなモデルを提示しています。
期待される成果
リアルタイム環境認識:最新のLiDARセンサー、カメラ、レーダーを活用し、交通状況や障害物を高精度に把握。
交通効率の改善:都市全体の交通データを収集・解析し、最適な経路選択を実現。
持続可能な都市開発:CO2排出削減や道路インフラ最適化への寄与。
自動運転技術が、Waymoやトヨタグループ、シンガポールなどの事例を通じて進化していることを見てきました。しかし、これらの取り組みが示唆するのは、技術革新が単に現在の課題を解決するだけでなく、社会のあり方そのものを変えつつあるということです。ここから、自動運転技術がデータ活用と融合し、どのように未来のモビリティ社会を形作るのか、その可能性を探ります。
自動運転技術の基盤を支えるのは5G通信とIoTの融合です。その高速性と低遅延により、車両間やインフラとのリアルタイム通信が可能となり、安全性と効率性の向上に寄与しています。
また、5G SA(Standalone)技術※を基盤とするネットワークスライシングは、自動運転車や緊急車両の通信を最適化します。例えば、緊急時には優先通信を確保することで、迅速な対応が可能です。さらに、エッジコンピューティングの活用により、車両や交通インフラが膨大なデータを即時に処理し、適切な意思決定をおこなえる環境が整備されています。これらの技術の融合は、交通管理の効率化や交通事故のリスク低減に大きく寄与すると期待されています。
※5G専用の技術と設備で構成されたネットワークシステム
センサーやカメラが収集する膨大なデータをAIがリアルタイムで解析することで、交通事故のリスクが低減しています。例えば、歩行者や車両の動きを即座に検知して回避するシステムは、安全性向上に貢献します。さらに、自動運転の浸透にあたり、ドライブレコーダーや衛星画像を活用した道路施設の維持管理が進展していきます。これにより、老朽化したインフラの早期発見や効率的な修繕計画が視野に入り、コスト削減と安全性向上の両立が期待されます。
冒頭で言及したように、自動運転技術とデータ活用のポテンシャルは、自動車産業にとどまりません。物流、保険、医療、都市計画など、自動車産業を超えた多岐にわたる分野で変革をもたらしています。これらの技術革新は、社会的課題の解決と新たな価値創出につながる可能性を秘めています。
例えば、物流分野では、センサーフュージョンを活用した精密な状況把握や、最適ルート計算を基盤とする配送効率の向上が、コスト削減と環境負荷軽減に貢献しています。保険分野では、運転データの高度な分析によって個別ニーズに応じた保険商品が登場し、新たな市場を開拓しています。医療分野では、迅速な救急搬送やAIによる緊急状況の判断が期待されています。デジタルツインやデータクレンジングを活用した都市交通の最適化が進み、スマートシティの実現に近づいています。
一方で、これらの多領域での進展に伴い、自動運転車が抱える課題が多面的に波及するリスクもあります。冒頭で示したように、サイバーセキュリティリスクやデータプライバシーの保護に加え、センサーデータの不整合や異常値が生む判断エラーを排除する技術的取り組みも必要です。こうした技術の進化と課題への対応を両立させるためにも、企業間や業界全体での共創が欠かせないのです。
自動運転技術が普及するなか、その成否を分けるカギは「透明性」と「倫理性」にあります。例えば、自動運転車が事故を回避する際の判断基準や、その結果に対する説明責任はどうあるべきか。これらは、単なる技術の問題ではなく、社会全体の信頼を得るために必要な視点です。World Economic ForumのAIガバナンスサミットでも、AI技術の責任ある開発と運用が強調されました※13。これは自動運転にも直結し、企業としては「何が正しい意思決定か」を問われる場面が増えるでしょう。
技術革新の進展には、安全性と倫理性を両立させる規制フレームワークが欠かせません。例えば、国際的な標準化によって自動運転技術の信頼性が向上し、社会で受け入れられやすくなっていくでしょう。
日本の企業が海外市場で自動運転技術を展開する際には、欧州や北米で進む規制を無視することはできません。これに対応し、透明性と倫理性を兼ね備えた製品やサービスを提供できるかどうかが、競争力の鍵を握ります。次世代モビリティの実現には、技術力だけでなく、それを取り巻くルール作りや社会の受容性をどう高めるかが重要です。倫理的視点や規制対応が、ビジネスの成功を左右する時代が訪れているのです。
ここまで考察してきたように、自動運転技術のさらなる発展には、データ主導の技術革新が不可欠です。5G通信やリアルタイムデータ解析、AIアルゴリズムの進化といった革新技術は、次世代モビリティの基盤を形成し、安全性の向上や交通効率の改善といった社会的課題の解決を加速させます。
また、物流の効率化、保険商品設計の進化、迅速な救急搬送など、既存の課題解決と新しい価値の創出が複数の領域で進行しています。こうした取り組みが進むことで、都市や産業全体がデータに基づいて効率化され、個別ニーズに応じたサービス提供がより現実のものとなるでしょう。自動運転技術は、単なる移動手段の進化にとどまらず、社会構造全体を再構築する力を秘めています。
本記事では国内外で進む自動運転のケーススタディを紹介しましたが、成功事例から得られる知見の活用が、改革のアシストになります。自社の課題解決や戦略策定に生かし、MaaS(Mobility as a Service)や次世代モビリティの発展に向けた一歩を踏み出しましょう。
メンバーズデータアドベンチャーは、データ領域のプロフェッショナル人材の育成・派遣を通じて、企業の最適な意思決定を支援し、データ活用による価値創造を推進しています。次世代モビリティに関するデータ分析や戦略策定においても、ご支援しています。
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