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【特別対談】イルグルム 執行役員 廣遥馬氏に聞くデジタル広告の未来≪前編≫

【特別対談】イルグルム 執行役員 廣遥馬氏に聞くデジタル広告の未来

生活者と企業が当たり前にデジタルでつながる現代。企業のなかにマーケティング実行体制を保有する合理性、あるいは必然性が高まっています。今回は「データとテクノロジーによって、世界中の企業によるマーケティング活動を支援し、売り手と買い手の幸せをつくる企業になる。」をビジョンに掲げる株式会社イルグルムから、執行役員 廣遥馬氏をゲストに迎え「デジタル広告の未来」について話を聞きました。

廣 遥馬 氏株式会社イルグルム

執行役員 廣 遥馬 氏

2016年、株式会社イルグルムに新卒入社。広告代理店向けの営業に従事したのち、2年でマネージャーに昇格。その後、人事戦略部門を立ち上げ、責任者として採用、教育、評価制度などの改革を推進。2021年、再び事業部門に戻り、現在はマーケティングDX支援サービスの本部長として、マーケティング、セールス、サクセス、サポート部門を管掌。大規模カンファレンスやセミナーへの登壇多数。2024年10月、執行役員に就任。

 

田中 秀和

株式会社メンバーズ フォーアドカンパニー

カンパニー社長 田中 秀和

ベンチャー企業にてIT事業の新規立ち上げ、事業拡大に貢献。2008年にWeb事業にて独立し、2012年に事業売却。その後、事業会社にて事業・経営に対する戦略立案に従事。Webの知見をもとに業界課題を改善した実績が認められ、セミナーへの登壇や業界紙への寄稿をおこなう。メンバーズに入社後は、金融系企業のデジタル支援PJTや、銀行のDX内製化に向けた高速アジャイルチームの立ち上げ・運用などのPJTを兼任し、2024年にフォーアドカンパニー社長に就任。

目次

デジタル広告と規制の影響

田中 秀和

田中

本日はよろしくお願いします。簡単に廣さんのご紹介をお願いしてもよいですか。
廣 遥馬氏

廣氏

イルグルムは、マーケティングDX支援事業とコマース支援事業の2つの領域を展開しています。私はそのうち、マーケティングDX支援事業において、製品企画・マーケティング・セールス・サクセス領域を統括しています。具体的には、広告効果測定ツール「アドエビス(AD EBiS)」、コンバージョンAPIツール「CAPiCO(キャピコ)」、レポート自動化ツール「アドレポ」など、デジタルマーケティングの広告領域に関わる複数のサービスを提供しています。

田中 秀和

田中

2024年10月に執行役員にご就任されたとのことですが、現在のデジタル広告市場をどのように捉えていらっしゃいますか。
廣 遥馬氏

廣氏

デジタル広告市場では、ユーザーのプライバシー保護の流れが顕著ですが、特に昨年は大きな転換点となりました。その一例が、Googleが2024年7月に予定していた3rd Party Cookie※1の廃止を撤回したことです。私もこの速報を見て非常に驚きました。このように、データ取得を巡る状況は刻一刻と変化しており、広告主がデータとどのように向き合うかが、ますます重要になっていると感じます。

※1 アクセスしたWebサイトと異なるドメインが発行したCookieのことである。同一のドメインから発行されたCookieは「ファーストパーティークッキー」という。

田中 秀和

田中

データの重要性が増してきている背景には、昨今の個人情報保護法の改正や規制強化が影響しているのでしょうか。
廣 遥馬氏

廣氏

そうですね。この流れは2018年ごろから始まっています。主にCookieを巡る規制には、大きく2つの側面があります。

1つ目は法律による規制です。その代表例がEU一般データ保護規則(GDPR)※2で、EU居住者に対してマーケティングをおこなう企業が対象となりました。GDPRでは初めてCookie※3を個人情報と定義し、これにより欧州諸国ではWebサイト訪問時にCookie使用の同意を求めるポップアップが表示されるようになりました。私も2022年に欧米を旅行した際、ほとんどのWebサイトでこのポップアップを目にしました。

2つ目は技術的な規制であるITP※4です。Apple製品全般でCookieの利用が制限され、他のプラットフォーマーも追従しました。そして、先ほどもお話ししたように、2024年7月にはGoogleが3rd Party Cookieの廃止を撤回しました。ここでよく誤解されるのが、「Google Chromeなら3rd Party Cookieが引き続き利用できる」という点です。実際には、ユーザーの同意に委ねる形となっています。

現時点でどのように同意取得を促すかは不明ですが、仮にAppleのATT※5のようなポップアップ形式になれば、同意取得率は低くなるでしょう。このように、どのプラットフォーマーでも、インターネット広告における3rd Party Cookieの利用制限は避けられない状況となっています。

こうなると、データ活用の鍵は1st Partyデータです。自社データをどのように計測・取得し、活用するかが重要になります。また、わずかに残る3rd Partyデータや他のデータソースをいかに自社データと組み合わせ、マーケティングに活かすかが問われています。

※2 「EU一般データ保護規則」(GDPR:General Data Protection Regulation)とは、個人データ保護やその取り扱いについて詳細に定められたEU域内の各国に適用される法令のことで、2018年5月25日に施行された。
※3 Webサイトにアクセスした際に記録されるファイル。訪問者が訪れたサイトの履歴、入力したデータ、ID、さらに利用環境などの情報が入っている。
※4 「Intelligent Tracking Prevention」の略で、ユーザーの追跡を制限するために付与されたプライバシー保護機能のことを指す。 サイトに訪問したユーザーの情報を保持する「Cookie」の機能を制限したり無効化したりする役割を担う。
※5 Appleのオプトイン式プライバシーフレームワークであり、iOS版アプリがユーザーの個人データを取得する際に、事前に本人から許可を得ることを義務づけるもの。

デジタル広告と規制の影響

広告主側がデータの主導権を持つ時代

田中 秀和

田中

御社のプロダクト「アドエビス」は、1st Party Cookieを使用して広告データを計測するサービスですね。どのような企業と相性が良いのでしょうか?
廣 遥馬氏

廣氏

アドエビスは現在、約1,300社でアクティブに利用されています。業界で言うと、EC、金融、人材、不動産業界の企業が多いですね。基本的には、Webのコンバージョンが明確で、獲得効率や費用対効果をシビアに求めるダイレクトマーケティングでの活用が中心です。

田中 秀和

田中

先ほどの規制の話の延長として、広告媒体の管理画面で計測したコンバージョン数と基幹システムで管理しているコンバージョン数に乖離が生じ、その結果、意思決定や判断が適切におこなえないというケースが多く見られますが、そこを解決するのが主に御社のプロダクトの強みだと認識しています。

昨今では、広告代理店経由から直販比率が上がっているとお聞きしていますが、その背景にはどのような要因があるのでしょうか?

廣 遥馬氏

廣氏

アドエビスは2004年からサービスを展開しています。初期はほとんどが広告代理店経由での導入でしたが、現在では広告主経由の導入数が代理店経由を上回っています。また、代理店契約から直販へ移行したいという相談も増えています。

これは、広告主が「自社の重要なデータを自社で保管したい」というニーズを高めているためです。同じことは広告アカウントの運用にも当てはまります。広告代理店を変更すると、広告の機械学習がゼロからのスタートとなり、貴重なデータ資産も失われてしまいます。

田中 秀和

田中

広告代理店をリプレイスするたびにデータがリセットされるという課題があり、そのため企業はデータの主導権を持ちたいと考えるようになったのですね。

廣 遥馬氏

廣氏

その通りです。広告主側のリテラシーが向上したこともありますが、データ規制の流れとも関連しています。企業がデータの主導権を持つことは、必然的な流れだと思います。

田中 秀和

田中

日本でも個人情報保護法の改正により、提供できる個人データの範囲が変わるなかで、企業がデータを保有するメリットと、代理店に委託するデメリットが明確になってきていますね。

廣 遥馬氏

廣氏

そうですね。まず、自社の管理下にデータを置くことは非常に重要です。第三者ベンダーがデータの保有権を持っている場合、自社の管理外でデータを利用される可能性があり、情報漏洩のリスクも高まります。一方で、自社でデータを保有すれば、こうしたリスクを未然に防げるだけでなく、法改正や新たな施策にも柔軟に対応できるというメリットがあります。

インタビューの様子

マーケティングの原点回帰

田中 秀和

田中

Cookieという技術を活用し、ユーザーを細かくターゲティングしてコミュニケーションをとる従来の手法から、広告運用のあり方が徐々に変わりつつあるように感じます。

廣 遥馬氏

廣氏

これまでは「How(どのように)」が重視され、特定のサイトを閲覧したユーザーに特定の広告を表示すれば成果が出る、という考え方が主流でした。しかし、これからの広告運用では、それだけでは通用しません。

1st Partyデータは、自社の顧客が誰なのかを把握するためのデータです。顧客がコンバージョンに至るまでにどの広告を経由し、どのページを閲覧したのかを分析することで、自社の顧客がどのような態度変容を経てサービスを購入するのかを理解できます。

そのデータをもとに訴求内容を作成し、「誰に・何を伝えるのか」を検討するための材料として1st Partyデータが活用されます。ある意味、「誰に・何を・どのように」をしっかり考えるという点では、マーケティングの原点に立ち返る流れとも言えます。

田中 秀和

田中

「ターゲットが若年層だからSNS広告」という話もありますよね。しかし、若いからと言ってSNSばかり見ているユーザーは意外と少なく、実際には複数のチャネルを横断しながら情報収集をしています。そのようななかで、小手先の「How(どのように)」だけではなく、「Who(誰に)」「What(何を)」まで思案を巡らせるのがマーケティングであり、自社の顧客を深く理解し、最適なコミュニケーションをおこなう必要があります。

その部分を明確にするのが、1st Partyデータの活用ポイントであり、上手く活用することで、よりユーザー起点でユーザーに寄り添ったコミュニケーションが可能になりますよね。

廣 遥馬氏

廣氏

本来、Cookieはそのような技術だと考えています。1st Party Cookieであれば、サイトのログイン情報を保存し、サイト内の行動データを蓄積することで、それに基づいた適切なアプローチが可能になります。これは、一度訪れたお店を再訪した際に、店員が前回の接客を覚えて適切なオファーをしてくれるようなものです。

しかし、3rd Party Cookieの場合、その情報が別の店舗にも共有され、関係のない場所から「この商品を見ていましたね」とオファーが届く状況になります。現実の実店舗で同じことが起これば不気味ですが、インターネット上では当たり前のようにおこなわれていたというわけです。

田中 秀和

田中

サイトを横断してデータが使われるという点が、ユーザーにとって不信感につながることがあります。そういった観点からも、法改正の流れや3rd Party Cookie規制は必然的な流れであったと言えますね。

前編ではデジタル広告業界とデータ規制について話をお伺いしました。後編では、規制のcookie規制やデータの活用によって求められる組織変革、そしてデジタル広告の未来についてお話をお伺いします。

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

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