執筆者紹介

株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。
毎年夏に開催される「マーケティングアジェンダ」は、国内外のブランド企業のトップマーケッターが350人以上集結する日本最高峰のマーケティングカンファレンスです。各業界における取り組みや、課題解決の方法をディスカッションし、刺激し合うことで仕事に役立つネットワークを深めることが目的です。
今回、メンバーズのセッションでは、株式会社ベストインクラスプロデューサーズ菅氏(以下、BICP)のモデレートのもと、ネスレ日本株式会社の中通氏(以下、ネスレ)、株式会社JR西日本SC開発(以下、JR西日本SC開発)の石神氏、とともに、「戦略と実行の分断をつなぎ、現場起点で成果を上げる2つのアプローチ」というテーマで議論しました。
株式会社ベストインクラスプロデューサーズ
代表取締役 社長
菅 恭一氏
ネスレ日本株式会社
デジタル&Eコマース本部 マネージャー
中通 康太氏
JR西日本SC開発株式会社
事業戦略室 マネージャー
石神 孝浩氏
株式会社メンバーズ
デジタルマーケティング本部 本部長
永松 拓土
永松
中通氏
ネスレの中通です。私はBtoCの事業会社を転々としてデジタルのフロントとコミュニケーションをやってきています。前職ユー・エス・ジェイからネスレに出戻りして、今は各事業のデジマのサポートや、組織横断のプロジェクト推進などを行っています。
石神氏
JR西日本SC開発の石神です。弊社は関西でショッピングセンターを運営している会社です。私は主にアプリの開発とCRMの責任者をしています。
菅氏
永松
本日は、デジタル時代のマーケティング実行プロセスにおいて多くの皆さんが経験・実感したことがあると思われる「戦略と実行の分断を防ぐには」というテーマでお話ししたいと思います。
各社さん戦略部分は重視して取り組まれていると思いますが、実行部分は軽視されがちな部分だと思っています。メンバーズでは、その実行部分を重点的に支援しています。
菅氏
早速ですが、メンバーズは「運用を変える」ということを提唱していますが、具体的にどういうことなのでしょうか?一般的に、運用は手を動かして回していくイメージですが、そこに「マーケティング思考を入れる」とは、どういうことなのかお伺いしたいです。
ちょうどネスレさんのプロジェクトに当てはまると思うので、中通さんからご紹介いただけますか?
中通氏
はい。今回ご紹介するのは、ネスレで扱う各種オフィスコーヒーサービスのビジネスグロースプロジェクトです。ネスレでは大まかには3つのサービスを展開しています。
1つは”ネスカフェ アンバサダー”。これはコーヒーメーカーを無料でオフィスに貸し出し、カプセルなどを継続的に購入いただくモデルで、概ね49名以下のオフィスを想定したサービスです。
2つ目が最近ローンチした”カフェスタンド”。これはネスカフェ アンバサダーを大人数でも利用できるようにカスタマイズしたモデルです。この2つのサービスは営業が直接訪問・商談しに行くスタイルではなく、EC完結型で、購入頂いたお客さまに一式を郵送するものです。
そして3つ目がWe Proudly Serve Starbucks® コーヒープログラム。これは100名以上のオフィスを想定しており、スターバックス®のコーヒー豆と厳選したフルオートマシンで、高品質の一杯を気軽に楽しめるサービスです。
そもそもの課題は、これらのサービスは担当部署が異なるため、顧客の獲得や運用などが分断していました。そこで、サービスのポジションを整理、連携することで、お客さまが来訪された際に最適なサービスを提案できる体制にし、同時に獲得効率を上げる、というプロジェクトでした。
最終的なアウトプットは、オフィスコーヒーの総合ポータルサイトを作ったという話なのですが、そこに至るまでのプロセスをご説明します。
まず最初に行ったことは、通常通りインプットでファクトを揃え、戦略を策定し、戦術に落とし込むという作業です。インプットの部分では、マーケットの調査を行い、また、10年以上続けているネスカフェ アンバサダーの既存顧客に対しては定期的に足を運んでインタビューも行っていたため豊富な情報を持っていました。
それらを基に戦略を作成していくと、オフィスの人数ごとにセグメントを作ると筋がよさそうで、一方でネスレはオフィスサイズに合わせたサービスを持っていたため、Webサイトではセグメントとサービスをマッチングさせることが重要だという考えに至りました。つまりターゲティングをしてレコメンドする。あるいはリテンションを作るなど、よくあるECの勝ちパターンを作ろう、という発想です。
この話をブラッシュアップし、実装いただける会社さんがないかBICPさんに相談したところ、メンバーズさんを紹介いただき、ブリーフをする流れになりました。
中通氏
メンバーズさんにブリーフしたときに、永松さんに「オフィスコーヒーを導入したい人のニーズって他にないんスか?(笑)」と言われたんですよね。
永松
中通氏
はい、軽いノリで言われました(笑)。
ただ、外部のメンバーズさんから無邪気に指摘されたことで、さきほど紹介した戦略は実は顧客を深く捉えきれていないということに気づき、改めて潜在顧客に対して合計34時間のインタビューを実施しました。
そのなかで一番の発見は、我々はオフィス人数ごとにセグメントを分けていたのですが、例えば同じ10人のオフィスでも、誰がサイトを訪問するかによってインサイトが異なるという、今思えば当たり前のことでした。
たとえば、社長は美味しそうなコーヒーか?社員は喜びそうか?などを気にして自分が納得できれば決裁するが、総務担当の場合は自分の役目に役に立つソリューションなのか?運用は?稟議はどうしようか?などに興味があります。このように立場によって求めている情報が異なります。
そうすると、もともと我々が考えていたセグメントとサービスをマッチさせてその精度を高めることに主眼を置き、コンバージョンレートを頑張って追うというやり方と、お客さまの来訪インサイトが乖離している、という考えに至りました。
僕たちが本来やりたいのは、お客さまの社内でネスレのサービスの導入を意思決定してもらうことがゴールで、そのために役立てることをする、それがWebサイトの役割であると、再定義したんですね。
なので、サイトのコンセプトも「社内調整に必要な情報を持って帰ってもらう」ということを一番のプライオリティにおき、HOWとして、それに見合うサイトの情報設計や機能実装をしていきました。たとえば、料金シミュレーター機能や、稟議資料のテンプレートを用意するなどです。そうして今のサイトが出来上がっていきました。
振り返ってみると、ブリーフを行った時に、「こんなことやったほうがいいですよ、こんな機能つけたほうがいいですよ」といったHOWの提案応酬ではなくて、インプット増やしませんか?というご提案から始まったのが良かったと思っています。それを基に戦略を転換しHOWが変わっていったため、PDCA回転も、運用もしやすくなっていると思います。
菅氏
石神氏
一つお伺いしたいのは、今の説明だと顧客理解のインプットを2回しているのかなと思ったのですが、1回目と2回目の違いを教えてもらえますか?
中通氏
「顧客理解」という言葉の意味は広いと思っています。私は「ビジネスの数字はお客さまの行動の結果」だと考えていて、そうするとマーケット分析も顧客理解の一部だし、N1のインタビューも顧客理解になる。
何が違うのかというと、目的に応じて、ほしいアウトプットと、理解するための手法が異なります。
今回の場合、1回目では我々の提供する各サービスが市場の中でどうワークしているのか?ということが明らかにできていました。
2回目ではお客さまはどうやってサービスを選んでいるのか?ということを明らかにしました。これはつまり「顧客インサイトに合ったWebサイトを作る」という目的で顧客を理解するための調査でした。
菅氏
中通氏
そうですね。お客さまが「どうやってサービスを選んでいくのか」という部分に関しては、取得していたマーケティングリサーチや既存顧客のインタビューだけでは不十分でした。
菅氏
中通氏
その通りです。戦略はリソースの配分という解釈ですが、ではなぜ戦略を作るのか?というと「お客さまの課題を解決する」からです。
それにはお客さまを知る、理解するということが前提で、それはすべてのスタートポイントになるものだと思います。
永松
永松
マーケティングアジェンダ2024レポート後編は「現場から組織を変えるには?DX部門におけるオーナーシップを持ったチームづくり」です。
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「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。