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【前編】マーケティングオペレーション(MOps)の重要性と実現方法―戦略と実行の分断をつなぐ「戦術」を強化するには?

マーケティング業務のDXが一足飛びに進み、顧客基盤をはじめ導入したシステムの利活用フェーズ、具体的な成果創出を求められるフェーズにいるという方も多いのではないでしょうか。しかし、実際には描いていた理想のコミュニケーション戦略が実行に移されておらず、「戦略と実行の分断」に課題を持つ企業も増えています。このような課題に対し、マーケティング効率と成果を高める組織の機能・仕組みを指す「マーケティングオペレーション(MOps)」が注目を集めています。

メンバーズでは、2024年7月に「マーケティングオペレーション(MOps)の教科書」の著者である丸井達郎氏をお招きし、MOpsの必要性、役割、そして企業が直面しているさまざまな課題への対応方法などについて、オンラインセミナーを開催しました。本記事では、その模様を全2回に分け一部を抜粋しご紹介します。

 

 

丸井 達郎ゼロワングロース株式会社 代表取締役
丸井 達郎氏

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてグローバルでわずか6名しかいない重要顧客を支援する戦略コンサルティングチームに所属し、グローバルで活用される再現性の高い戦術設計フレームワークで、多くの顧客企業のデジタル変革を成功に導く。GTM戦略の立案から、マーケティング・セールスのテクノロジーまで幅広い知識を有す。自身もマーケターとして、企業の成長に大きく貢献した経験を持つ。テクノロジースタートアップ企業の海外進出も従事した後、2021年ゼロワングロース創業。

仏INSEADにてCGM(Certificate in Global Management)プログラム修了。

著書に「『数字指向』のマーケティング データに踊らされないための数字の読み方・使い方(MarkeZine BOOKS)」と「マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識」(MarkeZine BOOKS)「レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識」(MarkeZine BOOKS)がある。

 

 

佐藤 直輝株式会社メンバーズ ビジネスイーカンパニー チームリーダー
佐藤 直輝

2023年4月にメンバーズ ビジネスイーカンパニーに入社。大手エネルギー関連企業や大手総合IT商社のマーケティング活動の支援をPMとして統括。現在は「営業をデジタルで高度化する」に基づいたサービスの開発や、マーケティングオペレーションサービスの企画業務に従事している。

 

 

目次

日本と海外から見る、マーケティングオペレーションの違い

私がマルケトに在籍していた当初、マーケティングオートメーションの導入や運用に数多く携わっていましたが、「本質的な課題の解決にならない」と思うことが多々ありました。そんなある日、重要顧客を支援する戦略コンサルティングチームに所属することになり、海外マーケティング組織の取り組みを現場で間近に見ることができました。そこで大きな違いに気づくことになります。

グローバルで優れたマーケティングを実行する組織の多くが、実行に移す前の「戦術設計」の部分に時間をかけ、緻密におこなっていました。役割や責任、組織モデル、オペレーションモデル、データやテクノロジーなど、どの領域でも設計が詳細に決まっています。戦略的なゴールに到達するために、戦術設計、システム開発でいう要件定義がきちっとなされており、その上で緻密な実行がおこなわれているという形です。

そしてもう一つ、この戦術設計部分はオペレーションモデルとしてフレームワーク化され、一般的な知識として多くの組織に共有されていたのです。この戦術設計のフレームワークがベースとなり、そのベストプラクティスとしてマーケティングオートメーションやCRMシステムは開発されていることにそのときに気づきました。

つまり、この戦術設計のベストプラクティスが詰まった、オペレーションモデルの知識がなければ、いかなるマーケティングやセールスの海外クラウド製品を活用することも難しい、言い換えればオペレーションモデルだけを理解してしまえば、あらゆる製品を使いこなすことは難しくありません。知らないから難しいだけであって、知ってしまえば大した話ではないことが多いのですが、マーケティングオペレーションの知識やフレームワークを専門的に学べる機会が日本では少ないのが現状です。

例えばビッグデータというキーワードがあります。データを集めて、そこからインサイトを導き出し新しいビジネス機会を考えたりマーケティングを最適化したりするというアプローチですが、実際にはほとんどの企業でもうまくいっていないのが実情です。うまくいかない理由としては色々ありますが、データを収集し、そのデータを加工し、分析し、インサイトを発見するプロセスのなかにもすでにいくつか問題があります。

1つ目は、データのアウトプット、つまりこのデータを利用するシーンが明確でないため、ただデータを無駄に収集し、大切ではないデータまで集めてしまうことが挙げられます。この膨大に膨れ上がったデータから、最適なインサイトを導き出す人材、データサイエンティストのような人材は市場にそこまで多くありません。そして解析や分析には時間がかかります。そうこうしている間に3ヵ月くらいは経過してしまいます。コストも時間もかけて、それは考えればわかるよね。というインサイトしか出てこなければがっかりしますよね。

ところが、AとBのターゲット、どちらが最適なターゲットか比較するという目的で、データを取得し、その結果を見て判断する。という具体的な利用シーンが決まった状態でデータを収集すれば、意思決定として利用できるので、分析する必要がなく、Aが良さそうだと判断することができます。このような意思決定にデータを持ち込む。そのデータを効率的に組織としてインプットし、加工し、そしてアウトプットする、その設計図をデザインし、オペレーションモデルとデータを管理するのが、マーケティングオペレーションです。

DataManagementの比較

データをただ格納するだけでは役に立たないので、そういったオペレーションモデルの構築がマーケティングだけでなく、あらゆるビジネスシーンで進んでいます。このような概念をBigOps(ビックオプス)と言います。元々はシステム開発の現場をテクノロジーやデータを使って合理化し、運営を平準化するDevOps(デブオプス)の知識を持った方がマーケティングやセールスにオペレーションモデルのノウハウを伝えていったのが、BigOpsの始まりです。

例えば、マーケティング、営業、カスタマーサクセスをリードする人たちを支える役割として、MOps、セールスオペレーション(SalesOps)、カスタマーサクセスオペレーション(CSOps)があります。それぞれが現場とIT部門の中間に位置し、ビジネス側の要求を理解し、ITチームともコラボレーションを図りながら、オペレーション体制を構築し、データマネジメントを強化していきます。
DataManagementの比較
日本でも、MOpsやSalesOpsと言われる専門チームがある企業がここ1年で増加しています。また、紹介した3つのオペレーションにとどまらず、FinanceOpsやLegalOps、AI/MLOps(マシンラーニングオペレーション)というものもあります。米国では、各ビジネステーマのデータやオペレーションのサイロ化が課題になっており、営業やマーケティング、カスタマーサクセスなど収益部門のオペレーションモデルを統合するRevOps(レベニューオペレーション)のチームを敷設する組織も増えてきています。

マーケティングオペレーションがつくられた背景

chiefmartec.comの調査によると、2011年に150個あったマーケティング関連のツール数が2024年には14,106個まで急増しています。そのなかで、自社にマッチしたツールを選ぶのは専門的な知識が要求されますし、イベントやセミナーの実施など、いわゆるフィールドマーケティングの仕事をしながら、片手間で実施するのは困難です。
 
そこで、マーケティングの施策立案や実行を担当するフィールドマーケターと、データ・テクノロジーを専門的に担当するMOpsによって、専門性を追求するマーケティング組織体制が整備されました。

専門性を追求するマーケティング組織体制

マーケティングオペレーションを実現していくための3つのテーマ

マーケティングオペレーションを実現していく上で、マーケティングのマネジメントには3つの軸があります。

MOpsが実現するマーケティングマネジメント

レベニュープロセスマネジメント

レベニュープロセスマネジメントとは売り上げに至る一連プロセスマネジメントのことです。新規顧客獲得の場合は、リード(見込み客)を獲得し、商談、受注に至る一連のプロセス、既存顧客のアップセル・クロスセルといった収益獲得に至る一連プロセスの整備です。
 
このプロセスをマネジメントすることで、より効率的な収益モデルを実現するための成長ドライバーや受注に至らない場合の課題を可視化してボトルネックを排除、生産性を向上させていきます。

キャンペーンマネジメント

キャンペーンマネジメント

マーケティング施策を打ち出す際に、施策のターゲットやキープロポジションなどの試作実施データのデータベースが構築されるようラベリングし、組織として共通した観点で施策の効果を集計・測定することができるよう、キャンペーンリクエストを通じたマネジメントプロセスを構築します。欧米では年間でのキャンペーンカレンダーを制作している企業が多く、活動量という形で年間の目標が決められており、その進捗状況を可視化しています。
 
営業でも活動量が規定されている組織と、個人の感性に任せている組織では成果のシミュレーションという意味では前者が有利です。マーケティングも同様に、どのチャネルでどの程度まで活動すれば、確実の目標達成ができるのか?そういう観点でシミュレーションしています。このシミュレーションに立てば、遅れは大きな致命的な問題になります。

そして、改善プロセスの高速化も必要です。キャンペーンリクエストを通じてデータベース化された施策と結果のデータを活用して、「誰に」「どのようなメッセージで」「どの程度の予算かけて」「どのタッチポイントを使って」「どのようなクリエイティブを使って」とデータの組み合わせで効果を検証し、ターゲットAにはこのキーメッセージCが効果的であるといったように意思決定をおこなっていきます。

生産性マネジメント

先ほど述べた通り、活動量ベースのゴール設定があるため、マーケティングの活動生産性向上はゴール達成における重要なテーマです。マーケティングチームの生産性を管理して、施策の効率性をコントロールすることが重要です。

例えば、ランディングページの制作を3日から1日に短縮することで、より早くゴールを達成することができますし、遅れるとゴール達成から遠ざかってしまいます。制作日数を短縮することができれば2日分の追加施策を実施することができます。プロジェクトマネジメントのツールで管理して、マーケティング組織の生産性を高めることも必要です。

収益最適化のための施策の可視化やプロセスの構築、顧客へのバリュークリエイション最適化、生産性向上の3つをおこなうことで、マーケティングの成果向上に貢献していきます。この3つが大きなオペレーションモデルのテーマですが、すでにフレームワークやモデルは決まっており、多くの会社で共通のものを利用していると言えます。
 
繰り返しになりますが、そのベストプラクティスがシステムの形として存在するのが、グローバルのトップブランドのクラウドサービスといえます。

レベニューオペレーション(RevOps)

前述したMOpsやSalesOps、CSOpsのデータ統合を目指し、レベニューオペレーション(RevOps)という役割を設定する企業も増えてきています。

CRO・RevOpsの登場

レベニュー組織内でアプリケーションとデータが分散すると、それぞれが個別最適化されることがあります。しかし、これにより全社的な合理的意思決定が難しくなり、セキュリティやガバナンスの問題が発生しやすくなります。また、重複した投資が増えることで、コストやリスクが膨らみ、全体のROI(投資利益率)に悪影響を与えるケースが増えています。個別最適化が必要なケースも多いため、これらの重複状況を可視化し、ビジネス間のコラボレーションを促進することが重要です。そのため、RevOpsの役割と責任が増加しています。

激増するアプリケーションの導入に対して、柔軟かつ機敏な対応が求められています。新しいアプリケーションの導入や既存のシステムの更新を容易にする一方で、一元化されたデータマネジメントを実現するという、相反するニーズに応える必要があります。多くの米国企業では、不必要なSaaS(サービスとしてのソフトウェア)を削減しつつ、アプリケーションの入れ替えを促進するための基盤構築に取り組んでいます。このようなアプローチにより、効率的なデータ管理と柔軟なシステム運用の両立を目指しています。

RevOpsがAI活用の重要な役割を果たす

AIの学習効率性を高めるために、データの一元管理のニーズが急速に高まっており、AIモデルの適用に向けたクラウドデータウェアハウスの統合も大きなテーマとなっています。このため、RevOpsだけではなく全社的な立場からIT・DX部門がレベニュー組織のデータ基盤の整備に取り組む機会が増えており、データの一元管理を推進し、AIの学習効率を向上させることが求められています。
 

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

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