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AI活用で進化する製造業ー世界が注目する12の海外事例

デジタルテクノロジーが急速に進展するなか、AIを活用した自動化やプロセスの最適化はあらゆる業界の関心事になっています。特に、製造業ではAIの導入が注目を集めています。製造プロセスの効率化や生産性の向上、顧客ニーズへの迅速できめ細かい対応など、多岐にわたるメリットが期待されています。

本記事では製造業におけるAIの活用事例を通して、製造ラインの最適化や物流プロセスの見直し、さらにはメンテナンスコストの削減、安全性の向上など、製造業のさまざまな側面にもたらすイノベーションを紹介します。予知保全、品質管理、インテリジェントオートメーション、エネルギー管理など、AIの導入がもたらす革新を見ていきましょう。

目次

AIが変革する製造業ー成功の鍵を握る6つの活用ポイント

製造業におけるAI導入の背景には、インダストリー4.0やスマートファクトリーの進展があります。

インダストリー4.0とは「AIとデータ分析を組み合わせて製造ラインをインテリジェント化し、効率的な生産体制を構築すること」。スマートファクトリーとは「AIや機械学習を駆使して工場内の機器やシステムをネットワーク化し、自律的な運用を可能にする工場」を指します。これらの概念が実装されることで、製造プロセスの自動化やデジタル化が進む期待があります。

AIがもたらす効率化や生産性向上が注目される一方で、製造業のなかには導入がうまく進まない企業も少なくありません。既存システムとの統合の難しさや、初期投資の大きさといった、あらゆる業界に共通する課題もありますが、「暗黙知のデジタル化」という製造業ならではの課題もあります。

日本のモノづくり企業では、長く「属人化された技術や知識」が重要な役割を担ってきました。熟練工の経験や勘といった「暗黙知」に依存する部分が多かったのです。この暗黙知をAIに学習させ、実装を進めていかなければなりません。

本記事では製造業のプロセスを俯瞰し、AIを導入すべき6つのテーマを抽出しました。先進企業がAIをどのように活用しているのか、そして製造業ならではの課題にどのように向き合っているのか――ケーススタディを参照しつつ、実装に向けた道筋を考えていきましょう。

AIを導入すべき6つのテーマ
テーマ 内容
1.予知保全とリモートモニタリング

AIによる機器のリアルタイム監視と故障予測をおこない、トラブルを未然に防ぐ。遠隔地からも機器の状態を把握し、メンテナンスを効率化。これによりダウンタイムを最小限に抑え、生産性が向上。

2.製造プロセスとサプライチェーンの最適化
AIで製造プロセスとサプライチェーンを最適化。需要予測や在庫管理の精度を高め、供給の安定化とコスト削減を目指す。サプライチェーンの可視化により、効率的な製造を実現。
3.AIが主導するインテリジェントオートメーション
AIとロボティクスを組み合わせた自動化技術。生産条件に適応し、複雑な製造工程でも高品質と効率化を両立。AIで不良品を早期に検出し、信頼性向上とコスト削減を実現。
4.品質管理と労働安全性の向上
AIによって品質を管理し、作業環境を監視し、危険な状況を即座に検知。品質保証を進めつつ、労働者の安全を確保し、リスクを最小化する。
5.製品開発とカスタマイゼーション
AIで市場データや顧客フィードバックを分析し、ニーズに応じた製品を迅速に開発。BtoC分野では、パーソナライズされた製品開発で競争力を強化。
6.エネルギー管理とコスト削減
AIで製造プロセスのエネルギー消費を最適化し、コスト削減と環境負荷の軽減を実現。

 

1.予知保全とリモートモニタリング

PepsiCo(アメリカ)/製造現場の効率化とメンテナンスコスト25%削減を実現

AIを導入した背景
PepsiCoは、1965年に設立された飲料および食品業界の世界的な大手企業で、ペプシ、レイズ、ゲータレード、トロピカーナなどのブランドを世界200ヵ国以上で展開しています。製造プロセスの最適化と運用効率の向上を目的に、PepsiCoは予知保全技術とリモートモニタリングにAIを導入し、業務の効率化を図りました。
 
AIを実装した効果
AIを活用した予知保全システムを導入し、製造設備の摩耗や故障をリアルタイムでモニタリング。このシステムは設備から300万時間以上の稼働データを解析し、故障パターンを特定するアルゴリズムを構築。コンベアベルトやベアリングの摩耗を事前に検知することで、予期しないダウンタイムを70%削減し、メンテナンスコストは25%削減されました。製造現場の稼働率を向上しつつ、最適なメンテナンス計画も立てられます。また、センシングデータをAIが解析し、リモートモニタリングを通じて異常を検知。即座に対応することで生産性を向上させています。

※1:出典「Artificial Intelligence at PepsiCo」(PepsiCo・2021)
https://www.pepsico.com/our-stories/story/artificial-intelligence-at-pepsico
※2:出典「The Fascinating Ways PepsiCo Uses Artificial Intelligence And Machine Learning To Deliver Success」(Bernard Marr & Co.・2019)
https://bernardmarr.com/the-fascinating-ways-pepsico-uses-artificial-intelligence-and-machine-learning-to-deliver-success/

Siemens(ドイツ)/年間で17万時間以上の稼働時間を確保する、AI予知保全システム

AIを導入した背景
Siemensは製造業、インフラ、交通、医療など多岐にわたる分野で事業を展開しています。DXの推進でも先駆的な存在で、製造業の領域で注目すべき取り組みは、AIを活用した予知保全システム「Senseye Predictive Maintenance」です。製造業では「設備のメンテナンス効率向上」や「製造ラインのダウンタイム削減」といった課題があります。同社はAIによってこれらの問題の解決を目指しました。
 
AIを実装した効果
「Senseye Predictive Maintenance」は、AIと機械学習を活用して機械の異常予測をおこない、メンテナンスのタイミングを最適化します。このシステムは、リアルタイムで設備の状態を監視し、AIが故障の予兆を分析することで、ダウンタイムを最大で85%削減し、保守コストを最大40%削減します。複数の工場や拠点をまたがって500以上の設備を監視でき、設備の運用効率を大幅に向上させます。
このシステムを導入した自動車メーカーは、年間で約17万1,000時間のダウンタイム削減を達成し、石油・ガス産業では従来はロスだった7万2,000時間以上が有効に活用できるようになっています。食品・飲料業界のケースでは、設備保守の効率化によって年間で4万ユーロ以上のコスト削減が報告されています。

※3:出典「Generative artificial intelligence takes Siemens' predictive maintenance solution to the next level」(Siemens・2024)
https://press.siemens.com/global/en/pressrelease/generative-artificial-intelligence-takes-siemens-predictive-maintenance-solution-next

2.製造プロセスとサプライチェーンの最適化

トヨタ(日本)/生産スピードと品質を両輪で高めていくAI塗装シミュレーション

AIを導入した背景
トヨタ自動車は、グローバルで年間900万台以上の車両を生産する自動車メーカーです。全社を挙げて生産効率と品質の向上に注力しており、製造プロセスにおけるDXを積極的に進めてきました。近年は塗装工程や品質管理でAIを導入しています。車体塗装における色の管理項目は300以上に及びますが、従来は職人の経験と勘に頼っていました。この作業をデジタル化し、開発のスピードアップを目指したのです。
 
AIを実装した効果
トヨタはAIを用いた塗装シミュレーションシステムを開発し、色作りから計測までデジタル化。塗料の配合をシミュレーションし、塗装された車体をビジュアルで再現します。これにより、実際に塗装することなく品質が評価できるようになり、トレンドカラーをいち早く製品に盛り込めるようになります。加えて、工場ではAIを活用した予測保守を導入。トヨタはAIの活用によって、生産の効率化や品質の向上にとどまらず、作業環境の向上も実現しています。

※4:出典「塗装プロセスにおける品質評価のデジタル化」(株式会社トヨタシステムズ・2022)
https://www.toyotasystems.com/product-service/special/paint-dx/
※5:出典「トヨタ: 製造現場が自らモデル生成できる "AI プラットフォーム" を Google Cloud とのハイブリッド クラウドで開発・運用」(Google Cloud・2023)
https://cloud.google.com/blog/ja/topics/customers/toyota-develops-and-operates-its-ai-platform-in-a-hybrid-cloud?hl=ja

サムスン(韓国)/サプライチェーンのリスクをAIで早期発見、物流戦略を迅速化

AIを導入した背景
サムスン電子は、韓国を代表するグローバル企業でスマートフォンや半導体、ディスプレイ、家電製品を中心に幅広い事業を展開しています。特に半導体分野では、NANDフラッシュメモリ市場で世界シェア30%以上を誇ります。同社は2030年までに半導体工場を完全自動化し、「スマートセンサー」で製造工程を制御するロードマップを明らかにしており、DRAMの設計自動化、チップ材料の開発、ファウンドリの歩留まり改善など、さまざまな製造プロセスにAIを導入しています。

AIを実装した効果
サムスングループは、AI技術を活用して製造プロセス全体を自動化し、DRAM設計やチップの量産工程で効率化を進めてきました。2024年5月にグループのIT企業「サムスンSDS」が紹介したのは、AIを活用したデジタルロジスティクスプラットフォーム「Cello Square」のパフォーマンスです。このプラットフォームは日々6万件以上のグローバルニュースを分析し、でサプライチェーンのリスクを検出し、物流リスクを判定。従来は1日以上かかっていた物流戦略の策定時間を2時間まで短縮しました。

※6:出典「Samsung Showcases AI-Era Vision and Latest Foundry Technologies at SFF 2024」(SAMSUNG・2024)
https://semiconductor.samsung.com/news-events/news/samsung-showcases-ai-era-vision-and-latest-foundry-technologies-at-sff-2024/

3.AIが主導するインテリジェントオートメーション

BMW(ドイツ)/AIナビゲーションで物流ロボットが進化、エラー削減と生産性向上

AIを導入した背景
BMWは、ドイツを拠点とする世界的な自動車メーカーで、特に高級車市場でプレゼンスを高めています。1917年の創業から技術革新を追求し、近年はDXの一環としてAI技術の導入にも力を入れています。製造現場で自動化を進めるため、同社は工場で働く自動誘導車(AGV)を開発しました。

AIを実装した効果
BMWは自社で開発した物流ロボットとスマート輸送ロボット(STR)に高性能技術とAIモジュールを搭載し、人や物体を認識する能力を向上させました。ナビゲーションシステムが進化し、同社のAGVはフォークリフトや作業員、障害物を明確に識別。数ミリ秒で代替ルートを計算します。これによってエラーや事故率を減らし、物流プロセスの生産性を向上する効果が期待されています。AI駆動のAGVは工場や倉庫管理を最適化するソリューションとして期待がかかります。

※7:出典「BMW Group is making logistics robots faster and smarter」(BMW・2020)
https://www.press.bmwgroup.com/global/article/detail/T0308393EN/bmw-group-is-making-logistics-robots-faster-and-smarter?language=en
※8:出典「How AI is revolutionising production.」(BMW・2023)
https://www.bmwgroup.com/en/news/general/2023/aiqx.html

オムロン(日本)/AIコントローラーで加工精度を高め、工具の摩耗を20%削減

AIを導入した背景
オムロン株式会社は、1933年に創業された日本の電気機器メーカーで、制御機器、電子部品、社会システム、ヘルスケアなど多岐にわたる分野で事業を展開しています。同社は製造業DXにいち早く取り組んでおり、熟練技能者の不足や生産性の向上といった製造業が直面する課題を解決するため、AI搭載コントローラーを軸にした「i-BELT」で製造プロセスを最適化しています。

AIを実装した効果
オムロンはAIを活用した「金型加工の切削最適制御サービス」を提供しています。このサービスは、工作機に設置した振動センサーを通じて、切削時の振動データをリアルタイムで計測し、AIが切削抵抗を解析して最適な加工条件を提案するもの。これにより、加工時間は従来から40%、工具の摩耗量は20%削減され、寿命は約2倍に延長されました。このサービスは既存の工作機にも適用でき、AIコントローラーとサポートツールを組み合わせて設備の異常予兆を監視し、製造現場の効率を高める機能も備えています。

※9:出典「匠の技の“見える化”で、金型製造の加工時間40%削減」(オムロン株式会社・2018)
https://www.fa.omron.co.jp/solution/case/our_001/?sol=relation

4.品質管理と労働安全性の向上

ボーイング(アメリカ)/予測保守システムで故障を事前に検知、メンテナンスコストを20%削減

AIを導入した背景
ボーイングは航空宇宙産業におけるグローバル企業で、民間航空機の製造や宇宙システムを手がけています。航空業界は何より「安全なフライト」を重視します。同社も創設以来、安全上のリスクを減らすためのイノベーションを進めており、その一環としてAIも積極的に導入しています。

AIを実装した効果
ボーイングはAIを活用した予測保守システム「Boeing AnalytX」を導入しました。このシステムは航空機のリアルタイム運行データを分析し、潜在的な故障や異常を事前に検知してメンテナンスのコストを20%削減し、フライトの遅延を35%削減しています。このプログラムは続々と機能が拡張されており、ドローンとAIを組み合わせた検査や、フライト中にリアルタイムで異常を検出する仕組みの実装が模索されています。

※10:出典「 Innovation Quarterly | 2018 August | Volume 2 | Issue 9.」(Boeing・2018)
https://www.boeing.com/content/dam/boeing/boeingdotcom/features/innovation-quarterly/archive/IQ_2018_August.pdf

JFEスチール(日本)/リアルタイムで人物を検知し、現場の安全性を高める

AIを導入した背景
JFEスチールは日本の三大鉄鋼メーカーの一角として、国内外で事業を展開しています。同社がDX戦略の一環として進めたのが、製造プロセスの効率化と安全性強化を目的とするAI技術の導入です。同社はAIの活用で「品質管理や労働安全性の向上」を目指しました。

AIを実装した効果
JFEスチールはAIを活用した人物検知技術を開発し、作業現場での安全性を強化。立ち入り禁止エリアに作業者が進入するとリアルタイムで検知し、自動的にアラートを発することで事故リスクを減らしています。動作検知システムでは従業員の基本行動をAIがチェックし、不適切なアクションを検知する機能も実装。労働安全性の向上に貢献しています。同社はこのAI技術を全社的に広め、安全管理の強化と生産性の向上につなげています。

※11:出典「国内業界初となるAI画像認識による安全行動サポート技術の導入について」(JFEスチール株式会社・2018)
https://www.jfe-steel.co.jp/release/2018/12/181211.html

5.製品開発とカスタマイゼーション

NVDIA(アメリカ)/AIプラットフォームで製品開発を加速、カスタマイゼーションを実現

AIを導入した背景
NVIDIAは1993年に創業したアメリカの半導体企業で、GPUの開発・製造に力を入れています。AI、自動運転、データセンターなどの分野でも事業を展開しており、AI処理のGPU技術でプレゼンスを高めてきました。近年はAIプラットフォームを活用して製品開発のカスタマイゼーションに取り組んでいます。

AIを実装した効果
NVIDIAは、製造業向けにデジタルツイン技術とAIソリューションを提供し、製品開発やカスタマイゼーションにおける大きな成果を上げています。例えば、NVIDIAのOmniverseプラットフォームは、BMWの工場でデジタルツインを使用して生産ラインを最適化。製品の開発スピードを上げ、物流コストを削減しました。
さらに、NVIDIAは2023年にSnowflakeと提携し、製造業の企業がカスタム生成AIアプリケーションを構築できるように支援しています。この取り組みにより、企業は自社のデータを活用してカスタムのAIモデルを作成し、その企業ならではのアプリケーションをスピーディーに開発できるようになります。設計から生産、物流に至るまで、AIを活用した製品開発、サプライチェーンの構築が視野に入ってくるのです。
※12:出典「BMW Group、 NVIDIA Omniverse のグローバル展開を開始」(NVIDIA・2023)
https://blogs.nvidia.co.jp/2023/03/24/bmw-group-nvidia-omniverse/
※13:出典「Snowflake and NVIDIA Team to Help Businesses Harness Their Data for Generative AI in the Data Cloud」(NVIDIA・2023)
https://nvidianews.nvidia.com/news/snowflake-and-nvidia-team-to-help-businesses-harness-their-data-for-generative-ai-in-the-data-cloud

アサヒビール(日本)/生成AIで技術資料の検索を効率化し、R&Dを加速

AIを導入した背景
アサヒビールは1889年に創業した大手ビールメーカーです。酒類、飲料、食品、薬品の製造・販売を手がけ、2023年には7,692億円の売上高を上げました。飲料業界は国内外で競争が激化しており、同社は製品開発の強化と顧客ニーズに対応するカスタマイゼーションの向上を目指し、DXとAI技術の導入に積極的に取り組んでいます。

AIを実装した効果
アサヒビールは2023年に、生成AIを活用した社内情報検索システムを導入しました。社内に蓄積された膨大な技術資料を効率的に検索・活用することを目的として、Azure OpenAI Serviceを利用したシステムです。PDF、PowerPoint、Wordなどのファイル形式に対応し、ファイルの内容まで検索できる機能を搭載。検索結果には、約100字程度の自動生成された要約が表示されるため、ビール醸造や容器技術に関する情報収集が劇的に効率化されました。これにより、R&Dプロセスのスピードと精度が大幅に向上しています。

※14:出典「生成AIを用いた社内情報検索システムを導入 研究所を中心に9月上旬から試験運用を開始 商品開発力強化やグループ間のイノベーション創出を目指す」(アサヒビール株式会社・2023)
https://www.asahibeer.co.jp/news/2023/0727_2.html

6.エネルギー管理とコスト削減

GE(アメリカ)/デジタルツインとAIでエネルギーを最適に管理し、発電効率を10%向上

AIを導入した背景
1892年に設立されたGE(ゼネラル・エレクトリック)は航空宇宙、エネルギー、ヘルスケアなど多岐にわたる事業を展開しています。特にエネルギー分野では、長年にわたり持続可能なエネルギーソリューションを提供してきました。同社はエネルギー効率の向上とコスト削減を目指してAI技術とデジタルツインを活用した管理システムを開発し、エネルギーインフラの運用効率を高めています。
 
AIを実装した効果
GEは、デジタルツインとAIを組み合わせたエネルギー管理システムを導入し、発電所の運用効率と信頼性の向上を実現しています。デジタルツイン技術により、発電設備の仮想モデルを作成し、リアルタイムで運用データを監視。これにより、予期しないダウンタイムが40%減少し、維持費が20%削減されました。さらに、燃料消費の最適化によって発電効率が10%向上し、運用コストが削減できています。

※15:出典「Digital Twin Software」(GE Vernova・2017)
https://www.ge.com/digital/applications/digital-twin

横河電機(日本)/FEMS導入で工場のエネルギー消費をAIが管理、コスト削減を実現

AIを導入した背景
横河電機は1915年に設立された日本の電機メーカーで、製造業向けの計測、制御ソリューションで世界的に評価されています。産業オートメーションやエネルギー管理システムの開発にも強みを持つ同社は、エネルギー効率の向上とコスト削減を目的に、FEMS(Factory Energy Management System:工場エネルギーマネジメントシステム)を開発しています。エネルギー使用の最適化を目指し、AIによるデータ解析を導入しました。
 
AIを実装した効果
横河電機のFEMSは、工場全体のエネルギー使用状況やCO2排出量をリアルタイムで監視し、効率的にエネルギーを管理します。AIの活用によってエネルギーの消費パターンを自動で解析し、異常の検知も可能に。改善すべきポイントをスピーディーに特定し、最適なエネルギー消費の運転パターンを導き出します。特に効果を発揮するのはボイラーの運転最適化です。AIが蓄積データを分析し、エネルギーの消費量を削減。同社は工場のエネルギーロスを削減し、CO2排出量の低減も達成しました。

※16:出典「ENEOSマテリアル/横河電機】世界初 強化学習AIが化学プラントに正式採用」(横河電機株式会社・2023)
https://www.yokogawa.co.jp/news/press-releases/2023/2023-03-30-ja/

ケーススタディに見る製造業のAI導入ー課題解決と未来への展望

製造業が解決すべき課題は予期せぬ機器故障への対処や品質管理、労働安全性の確保、エネルギーコストの最適化など、多岐にわたります。ケーススタディを通し、先進企業がAI技術の実装によって解決に向き合っていることを見てきました。

BMWやサムスンのケースのように、AGVやAIの導入を通して生産性の向上が進んでいます。さらに、AI主導のインテリジェントオートメーションでは、生産現場の自動化を次のレベルに引き上げ、人間と機械が協力する「共存型の工場」が視野に入っています。横河電機のように、AIを活用したFEMSにより、エネルギー消費の削減とCO2排出量の削減を同時に達成するアプローチもあります。このケーススタディは、AIが現場の課題を解決するだけでなく、サステナビリティにも紐づく、持続可能な成長をもたらすことを示しています。

冒頭で言及したように、製造業では熟練工の経験や勘といった「暗黙知」に依存してきました。DXにおいては、この暗黙知の自動化が大きなチャレンジになっています。昨今の生成AIの進展により、この「暗黙知」を実装する可能性も見えてきました。PepsiCoやSiemensでは、AIを活用した予知保全システムの導入により、熟練工の経験に依存していたメンテナンス業務を自動化しています。トヨタの事例では、AIを用いた塗装工程の最適化により、職人の勘に頼らないデジタル化の道筋が見えます。

AIの実装には、社内に蓄積された技術やノウハウをAIと統合することが鍵になります。このプロセスを通じて、経験豊富なスタッフの知識をデータ化し、全社的に共有・活用することで、製造プロセスの効率化や品質向上を目指しましょう。

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

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