執筆者紹介
株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。
製造業が直面する課題は、現場作業の効率化やデータの適切な活用、さらにグローバル市場での競争力向上など、多岐にわたります。現場の業務効率を高めること、そして従業員が快適に働ける環境を整えること。それが課題克服の第一歩です。
本章では、UX改善による現場のボトルネック解消と、データ活用による迅速な意思決定の実現に焦点を当てます。これらがグローバル競争力を支える基盤となり、製造業の未来への道筋を示します。
老朽化やブラックボックス化したシステムは、製造業の現場で作業効率を下げる要因です。複雑な操作が遅延やミスを招く懸念があります。また、部門ごとに異なるシステムが乱立する「サイロ化」で情報の速やかな共有が妨げられ、迅速な意思決定を阻むこともあります。
これらの課題を克服するためには、統一されたシステムの導入や部門間の連携強化が欠かせません。アプローチ方法の一つとして、利用者の使用感を中心に据えるHCD(人間中心設計)の考え方が挙げられます。
製造業では、データを活用した意思決定がまだ十分に根付いていない現場もあり、効率化や判断の迅速化が課題となっています。こうした課題に応える重要なポイントが、リアルタイムデータの活用です。
例えば、従業員が必要な情報をすぐに取得できるダッシュボードの導入は、作業遅延やミスの防止につながります。同時に、経営層が現場の稼働状況や在庫データをリアルタイムで把握できれば、生産計画やリスクへの対応もスムーズになります。UX改善は、現場と経営の双方にとって不可欠な要素です。
製造業がグローバルで競争力を維持・向上していくためには、現場の効率化と従業員の働きやすさの両立が不可欠です。Deloitteのレポートでは、製造業経営者の86%が「スマートファクトリー※を競争力の主要な推進力と見なしている」との調査結果が示されています。
また、「産業用メタバースの導入により労働生産性が平均12%向上する※2」という予測も注目されています。スマートファクトリーや産業用メタバースといった「デジタル製造業」の取り組みは、リードタイムの短縮や品質管理の向上を実現するものです。これらのアプローチが、日本の製造業が国際市場で存在感を高めるための役割を担っているのです。
関連コラム:AI活用で進化する製造業ー世界が注目する12の海外事例
※IoT、AI、ビッグデータ、ロボット技術などの先端デジタル技術を活用して、製造プロセスの自動化・最適化を進め、生産性と品質の向上を図る次世代型の工場
※2:出典「業界展望2024年 産業機械製造業」(Deloitte・2024)
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/manufacturing/articles/ad/manufacturing-industry-outlook-2024.html
製造業が競争力を高めていくためには、従業員体験(EX)の向上とデジタル技術の活用が欠かせません。ここでは、UX改善の取り組みとして、HCD(人間中心設計)の手法をはじめ、多面的なアプローチで現場の生産性や従業員満足度を向上させた国内外の事例を紹介します。それぞれの成功事例を通じて、現場での生産性向上や従業員満足度を実現するためのヒントを探っていきましょう。
前章で紹介した事例は、いずれもUXの改善が業務効率化や競争力強化に直結している点で共通しています。ボーイングは、VRを活用した革新的なスキルトレーニングで、DXが現場にもたらす可能性を示しました。サムスン電子は、従業員体験(EX)の向上を通じて、ビジネスの革新を加速させています。富士通は、人間中心の設計を活用し、UX改善を社員エンゲージメントの向上に結びつけました。これらの取り組みには、製造業が市場で競争力を高めていくためのヒントがあります。
UXの改善は、現場の課題を正確に理解することからスタートします。現場作業員や顧客との対話を通じて、業務フローや行動パターンを詳細に観察し、潜在的なニーズを浮き彫りにします。単なるデータ分析だけでなく、現場ヒアリングを組み合わせることで、真の課題に迫ることができます。
2章の富士通の事例でフォーカスしたHCD(人間中心設計)は、従業員と顧客双方の体験価値を向上させるための効果的な手法です。人間工学のガイドラインによると、人間を中心に置くアプローチは、次のように4段階で進められます。
段階 | 取り組み | 具体例 |
観察(Observe) | 現場の業務プロセスを詳細に観察し、課題の根本を把握する | 情報取得が煩雑な場面を特定し、改善の出発点を明らかにする |
分析(Analyze) | 観察データをもとに課題の原因を深掘りし、優先事項を明確化する | 情報共有システムの遅延が現場効率に与える影響を定量的に評価する |
設計(Design) | ニーズを反映したプロトタイプを作成し、操作性や効率性を重視した設計をおこなう | 直感的に操作できるダッシュボードやデータ可視化ツールを設計する |
評価(Evaluate) | 試験運用を通じてフィードバックを収集し、改善点を反映する。最適化されたシステムを提供する | フィードバックを基に、UIや機能を微調整し、現場の満足度と効率性を向上させる |
UX改善は単発の取り組みに終わらず、継続的な見直しが求められます。定期的なレビューや現場からのフィードバック収集をおこなうことで、課題を迅速に解決する体制が構築できます。
具体的には、現場や顧客の声を収集してさらなる改善点を特定するための利用状況のモニタリングをおこない、その結果を基にUIの改良や機能追加などのプロセス最適化を迅速に実施することが重要です。継続的な改善を重ねることで、UXが生む価値が現場に根付き、顧客と従業員の双方にとって意義ある体験を提供できるようになります。
製造業DXは、UXと先端テクノロジーを融合することで、企業の競争力を大きく向上させる可能性を秘めています。現場作業の効率化や従業員の働きやすさを追求することで、業務プロセスが最適化され、結果として顧客体験の向上につながります。
これらの取り組みは、単なる技術革新にとどまりません。環境への配慮や社会的価値の創出といった視点も含め、DX時代に必須の「持続可能な成長」を支える基盤になるでしょう。
本記事で取り上げた事例からは、「人間中心の設計(HCD)」と「UXの改善」が製造業DXの中核を担うことが明らかになりました。従業員体験(EX)と顧客体験(UX)を両輪にスパイラルアップしていくことで、製造業が直面する課題解決の道筋が描けます。現場と経営層が連携し、従業員体験を高めるとともに、顧客にとっての価値を最大化する戦略を推進していく必要があります。
今回紹介したHCDとUX改善の実践例は、製造業全体が参考にできる汎用性の高い成功モデルです。自社に合わせたDX×UX戦略を構築し、次世代製造業の未来像を描いていきましょう。
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「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。