• AI・先進領域

AI エージェント×業務フロー自動化―自社に最適な活用法とは?

AI エージェント×業務フロー自動化―自社に最適な 活用法とは?

企業の業務フローは、AIエージェントの役割が拡大するにつれ、新たな段階へと突入しています。生成AIやRAG(Retrieval-Augmented Generation)などの技術を活用することで、企業は業務プロセスを最適化し、反復作業の自動化だけでなく、意思決定の迅速化や業務全体の柔軟性向上を実現できます。特に、膨大なデータを保有する大企業では、AIエージェントの活用が競争力の鍵を握るようになっています。

しかし、「AIエージェントを導入すれば、すぐに業務が効率化できるのか?」、「どのように自社業務に最適化すればよいのか?」といった疑問を抱える企業も少なくありません。

本記事では、AIエージェントを活用した業務フローの自動化と、自社業務に特化したAIを育てるアプローチについて、最新の技術動向、海外企業の成功事例、導入時の課題とその対策を交えながら解説します。自社の業務にAIをどう活かすべきか、そのヒントを探っていきましょう。

目次

AIエージェントとは?従来の業務自動化との違い

AIエージェントは、これまでの自動化ツールとは何が違うのでしょうか。まず、その特徴を整理し、企業にとっての意義を明確にしていきます。

企業は今、AIエージェントとどう向き合うべきか

AIエージェントは、従来の自動化ツールとは異なります。LLM(大規模言語モデル)が自らプロセスやツールを動的に指揮し、タスクの遂行方法を自律的に制御するシステムです。2024年12月、AIスタートアップのAnthropicが発表した「Building Effective Agents」※1によると、AIエージェントは、単なるワークフローの自動化ツールではありません。環境に適応しながら意思決定をおこなう点で、従来の手法とは大きく異なります。例えば、従来の自動化ツールは、決められた手順を忠実に実行することが主な役割でした。AIエージェントは、状況に応じて判断し、柔軟に対応できる点に特徴があります。

AIエージェント市場は急速に拡大しており、企業の業務フローに革新をもたらしつつあります。市場調査会社MarketsandMarketsによると、Vertical AI agents市場は2024年の51億ドルから2030年には471億ドルに成長すると予測されています※2。さらに、ITリサーチ&アドバイザリー企業のGartnerは「2028年までに33%の企業がAgentic AIを採用する」と予測しています※3

このような成長を受け、企業は今こそAIエージェントの可能性を理解し、実務への活用を本格的に検討するタイミングにあるのです。

※1:出典「Building Effective Agents」(Anthropic・ 2024)
https://www.anthropic.com/research/building-effective-agents
※2:出典「AIエージェント市場| 市場規模 市場調査 予測 2030年まで」(MarketsandMarkets・2024)
https://www.gii.co.jp/report/mama1558955-ai-agents-market-by-agent-role-productivity.html
※3:出典「Intelligent Agents in AI Really Can Work Alone. Here’s How.」(Gartner ・2024)
https://www.gartner.com/en/articles/intelligent-agent-in-ai

LLMの進化がもたらした変革

2020年以降、LLMは急速に進化し、特にGPT-4の登場により、AIエージェントの能力が飛躍的に高まりました。GPT-4は、より正確な回答、複雑なタスクの遂行、マルチモーダル入力の処理など、従来のモデルを大きく上回る性能を発揮しています。これにより、AIエージェントは単なる質問応答システムから、業務プロセス全体を効率化する強力なツールへと変わりました。

さらに、AIエージェントは「推論強化型モデル」の登場により、新たな局面を迎えています。従来のAIは「過去のデータから最適な情報を提供する」役割にとどまっていましたが、最新のAIは 「情報をもとに仮説を立て、論理的に推論し、意思決定を支援する」レベルへと進化。 これにより、AIの活用は単なる業務自動化から「知的な意思決定支援」へとシフトしつつあります。

データはあるが活用できない企業の課題

多くの企業は膨大なデータを保有しているものの、それを十分に活用できていないという課題を抱えています。特に、以下の要因がその壁となっています。

  1. 人的リソースの不足
  2. 業務効率化のニーズの高まり
  3. 働き方改革による業務の見直し

このような課題を解決する手段のひとつが、AIエージェントによる業務フローの自動化です。AIは反復的なタスクを24時間365日対応できるだけでなく、高度な分析能力を持ち、企業の人的リソースを最適化。複雑なデータ分析や意思決定支援を通じて、「データはあるが活用できない」という課題を解消し、競争力の強化につなげます。

GPTラッパーとの決定的な違い

近年、「GPTをそのままUI化しただけのツール(GPTラッパー)」をAIエージェントと誤解するケースが増えています。特に、生成AIを活用した業務改善を検討する企業のなかで、「AIエージェント=高度なチャットボット」と捉えられることが少なくありません。しかし、両者には明確な違いがあり、適切な導入判断が求められます。

 

AIエージェントとGPTラッパーの違い
  AIエージェント GPTラッパー
業務との統合 企業のシステムやワークフローに組み込まれ、業務全体を最適化する 単独のチャットツールとして機能し、業務フローには統合されない
学習と精度向上 社内データやフィードバックを活用し、継続的に学習 固定モデルの利用で、定期的なチューニングがなく精度向上が困難
タスクの自動化 特定業務を自律的に処理し、実行まで担う 指示待ち型で、ユーザーの入力に対して応答するのみ
カスタマイズ性 企業ごとのルールやプロセスに適応可能 汎用的な仕様のため、企業独自のナレッジを反映しにくい

「AIエージェントを導入した」と思っていても、実際にはGPTラッパーを活用しているだけでは、業務改善の効果は限定的です。AIエージェントの本質は、業務フローとの統合と継続的な改善にあります。導入時には、自社の業務に最適化できる仕組みかどうかを慎重に判断する必要があります。

AIエージェントはどの業務領域で活用できるのか?

AIエージェントは、単なる業務の自動化にとどまらず、日常業務の効率化から専門性の高い業務の支援まで、幅広い領域で活用されています。 具体的にどのような業務フローでAIエージェントが活用されているのかを見ていきましょう。

 

AIエージェントを活用した業務フロー
業務カテゴリ AIエージェントの活用例 期待される効果
日常業務の効率化 メール返信の自動化(問い合わせ対応、定型メール作成) 業務時間の削減、対応スピードの向上
経費精算のチェック(不備の検出、申請内容の分類) 精算プロセスの効率化、ヒューマンエラーの削減
専門性の高い業務のサポート 法務の契約書レビュー(リスク検出、照合作業の自動化) 法務担当者の負担軽減、チェック精度向上
営業の稟議書作成の補助(過去データから自動生成) 稟議作成の効率化、フォーマット統一

近年、AIエージェントは「単体の強力なAI」ではなく、複数の特化型エージェントを組み合わせる形に進んでいます。たとえば、営業部門では「商談データの整理をおこなうエージェント」と「稟議書作成を支援するエージェント」、法務部門では「契約書の条文チェックをするエージェント」が連携。それらを統括する「オーケストレーター」が業務全体を最適化します。AIエージェントを効果的に活用するためには、「特化型AIの連携と統制」が不可欠になるのです。

先駆的な活用ケース/Salesforce「Agentforce」

Agentforceは2024年10月に一般提供を開始し、多くの企業で試験運用が進められています。ヒースロー空港では、AIを活用したカスタマーサービスの強化に取り組み、問い合わせ対応の自動化や応答時間の短縮に成功しました。

特に、AIエージェントの一機能として導入されたチャットボットの導入により、月間の問い合わせ対応件数は4,000件に達し、電話による問い合わせの平均対応時間は27%削減されています。また、ライブチャットの使用は導入以来450%増加し、デジタル収益も30%向上しました※4・5。Agentforceでは、単なる対話型AIとしてのチャットボットではなく、AIエージェントとして業務プロセス全体に組み込まれた形で活用されています。 問い合わせの処理だけでなく、応対データの分析や、カスタマーエクスペリエンスの最適化にも貢献している点が特徴です。

※4:出典「AIエージェントシステムの台頭:ボットからAIエージェントへの進化」(Salesforce・2024)
https://www.salesforce.com/jp/agentforce/agentic-systems/
※5:出典「パーソナライズによって、ロンドン・ヒースロー空港が30%のデジタル収益増加を実現」(Salesforce・2024)

AIを新入社員のように教育する

AIエージェントを効果的に導入するには、準備 → 試験運用 → 本格導入 のステップを踏むことが重要です。しかし、導入にはコスト・AIリテラシー・データ品質などの課題が伴います。これらを解決し、AIを継続的に活用しながら精度を向上させるためには、「AIを新入社員のように育てて、個別の会社特有の知識や業務を身につけさせる」という視点が欠かせません。たとえば、LayerX 部門執行役員の中村龍矢氏は「AIオンボーディング」の重要性を訴えています※6

※6:出典「『AIオンボーディング』の重要性とAi Workforceの挑戦」(LayerX・2024)
 
AIエージェント導入時の課題と対策
課題 具体的な問題 解決策
コスト負担 開発・運用コストがかかる

段階的な導入(小規模PoCから開始)
クラウドAIの活用(初期投資を抑える)

AIリテラシーの不足 従業員がAIを使いこなせない 教育プログラムの実施(社内研修・eラーニング) 
業務プロセスへの自然な組み込み
データの正確性とセキュリティ AIの誤回答や機密情報の漏洩リスク データガバナンスの強化(情報の分類と管理) 
監視・チューニングの仕組み構築

関連コラム:AI倫理のガイドライン:企業が直面するリスク管理の新たな基準とは

「育てる」視点で考えるAIの活用ポイント

AIエージェントは、導入後も継続的な運用と改善によって、精度を向上させ、業務適用の幅を広げることが重要です。特に、以下の3つの視点を持つことで、AIの効果を最大限に引き出すことができます。

 

1. フィードバックループの確立:継続的な改善を支える
AIエージェントは、導入直後から完璧に機能するわけではありません。ユーザーのフィードバックを収集し、応答の質や業務適合性を定期的に見直すことが重要です。具体的には、利用データの分析や評価システムを設け、AIの改善点を明確にすることで、企業の競争力を高めることにつながります。また、フィードバックの質を左右するのは、「AIエージェントを使いこなす人材」です。適切なフィードバックがおこなわれなければ、AIの改善は進まず、期待されるパフォーマンスを発揮できません。

 

2. 業務プロセスへの最適化:実用性を高める
AIを単なるツールとしてではなく、業務フローに組み込み、業務の一部として自然に機能させることが重要です。そのためには、SlackやTeams、ERPなどの社内システムと連携し、適切なタイミングでタスクを処理できるようにする必要があります。

また、AIを活用するためには、業務部門とIT部門をつなぐ「橋渡し役」の人材も重要です。適用範囲を広げ、業務プロセスとの統合を促進する役割を担うことで、AIの活用が定着します。


3. データの継続的な更新:精度と信頼性を高める

AIエージェントは、過去のデータに基づいて動作しますが、業務ルールの変更や新しい情報が追加されるたびに適切に更新しなければ、精度が低下します。

ここで求められるのが、「データマネジメントができる人材」です。AIが正確で信頼性の高いアウトプットを提供し続けるためには、データの品質維持や適切な更新が欠かせません。 具体的には、次のような取り組みが求められます。

 

    • AIが活用するデータの品質を管理し、情報の鮮度を維持
    • データの分類、タグ付け、ナレッジ更新のプロセスを定期的に見直す
    • AIの精度を監視し、必要に応じてモデルやデータの改善を実施


AIは決して万能ではありません。最新の情報を適切に管理し、活用する人材がいてこそ、その能力を最大化できます。

AIエージェントの成長サイクルとは

3段階の成長サイクル
ポイント 目的 具体的な取り組み
フィードバックループの確立 継続的な改善 利用データの分析、ユーザー評価の収集
業務プロセスへの最適化 実用性向上 業務フローと連携し、適用範囲を徐々に拡大
データの継続的更新 精度向上 最新の業務知識やルールをAIに反映

 

AIエージェントは、運用を最適化し、精度を向上させながら業務に適応させることが重要です。上記の 「フィードバックループ」「業務プロセスの最適化」「データの継続的更新」 の3つのポイントを継続的に実践することで、AIのパフォーマンスを持続的に高め、業務効率化や意思決定の支援に貢献できます。

AIエージェントがもたらすビジネス変革とは?

AIエージェントは、単なる業務効率化の枠を超え、企業の競争力を根本から変革しつつあります。 データを蓄積し、適応し、成長するAIは、固定化された業務プロセスを流動的かつ柔軟なものへと変え、意思決定のスピードと精度を飛躍的に向上させるのです。

AIが日常業務に密接に統合される時代には、企業のあり方そのものが変わります。 オペレーションの最適化にとどまらず、顧客体験のパーソナライズ、自律型ビジネスモデルの確立、組織文化の変革にまで影響を及ぼすことが予想されます。

人間とAIが共存し、補完し合うビジネス環境では、問われるのは「いかに業務を自動化するか」ではなく、「どうAIと協働するか」です。データを持つ企業は、それを活かせるかどうかで市場における優位性が大きく変わります。企業に求められるのは、AIエージェントを単なるツールとして導入するのではなく、「企業の知的基盤」として位置づけることです。 AIが意思決定をサポートし、企業はより戦略的な業務に集中できる時代が訪れています。AIとともに進化する企業だけが、これからのビジネスの主導権を握ることができるのです。

 

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

ページ上部へ